いつの間にかキラキラ起業に仲間入り

――例えば、集客のためのブログの書き方講座やSNSのファンのつくり方講座、ホテルラウンジでの起業家同士のお茶会など、さまざまな講座やイベントに誘われるようになった。

聡美さん 私自身、人脈を広げたり、集客のためのノウハウを得たかったりしたのもあって、興味のあるものにはどんどん参加するようにしました。

 やはり集客するためには、「コーチとして活躍しているように見せること」「キラキラした見た目を演出すること」が大事らしく、ヘアメイクの講座やファッションコーディネーターと行くお買い物ツアーなどにも参加してみました。今までは自己流のナチュラルメイクでしたが、教わった華やかなキラキラメイクに一新。毛先もふわっと巻き髪にし、ファッションもダーク系のニットから明るい色のワンピースに新調しました。講座で知り合ったカメラマンさんにプロフィール用の写真を撮影してもらうと仲間たちから大好評で、一気に「いいね!」やフォロワーの数も増えました。

 それに気を良くした私は、SNSでの投稿を頻繁に行うようになりました。例えば、こんな感じです(笑)

 「今、お客様とのコーチングが終了! 素敵な時間を共有できました☆」

 「大好きなお仕事をさせてもらえて、心から感謝です!」

 そんなふうに書いて、おしゃれなカフェや一流ホテルのラウンジで撮った自撮りをアップするようになったんです。

――SNSを活性化させることによって、フォロワー数も続々と増えていったが、本来の目的である集客にはあまり結び付かなかった。新規の申し込みは月に1、2人程度で、月収も会社員時代の半分以下のまま。1桁台の時も多かった。

聡美さん 頑張っているつもりでしたが、思ったほどの効果はなく、日に日に焦りを感じるようになりました。それに、SNS上のつながりやフォロワー数が増えたのはいいのですが、一方で困ったことが……。投稿した内容について、不愉快なコメントがちょくちょく入るようになったんです。

 私よりちょっと稼いでいる感じの同業コーチから頼んでもいないアドバイス(いわゆるクソバイス)が長々とコメントされていたり。未婚の年配の男性から、夫婦生活についての上から目線のコメントが入ってきたり。「あなた、どの位置から言ってるんですか?」という謎のコメントもたびたび書かれるようになって、「もうSNS面倒臭い!」って嫌気が差してきたんです。

 キラキラ起業女子たちが集まるイベントもだんだんおっくうになってきました。私が最も違和感を持ったのが、イベントの最後に必ず行う主催者のSNS用の記念写真撮影です。おしゃれに装った参加者が満面の笑みで、フォトジェニックな三段重ねのアフタヌーンティーセットを取り囲む。写真からはすごくキラキラしているように見えましたが、「話の内容ってそんなに濃かったっけ?」と後から疑問が湧いてくるようになってしまったんです。

本当にコーチがしたかったのか? 根っこの思いを見つめ直した

――独立して3年がたっても、コーチの仕事は鳴かず飛ばずのまま……。気の合う仲間と何か面白いことをやろうとコラボイベントを数回開催したが、「継続させるほどのモチベーションがなくなってしまった」という。

聡美さん 一番、自分の中でショックだったのは、コーチとしての仕事に情熱を持てなくなったことです。「自分のやりたいことを仕事にしよう!」「人が自分らしく生きるためのサポートをしよう!」と意気込み、会社まで辞めて独立したわけですが、そもそも私は人の心の奥深くと向き合うこの仕事が本当にやりたかったのか? 相手が変化や成長を遂げるまで、見届け、寄り添い続けるこの仕事が本気でやりたかったのか? 自分の根っこの思いに疑問を持つようになってしまったんです。

 人の変化や成長を見届けたいなら、出産して子育てをするほうがよほど学びになるのでは?……とも思ってしまった。私は、本当はコーチをしたかったのではなく、「独立起業して活躍する自分」を手に入れたかっただけなんじゃないかって気付いたんです。

 こう思ってしまった以上、この仕事を続けることはできない。もう潮時だと感じました。