36歳で「好きな人と結婚したい」は甘い考えなのか

――紹介されるのは確かにスペック高い人材ばかりだったが、どの男性も今ひとつといったところ……。

亜美さん 大企業のエリート社員で期待できるかと思いきや、虚無僧みたいに全くしゃべらない男性とか。小脇にセカンドバッグ、ポロシャツをスラックスにインして登場した昭和過ぎる研究職さんとか。専門分野の話はやたら面白かったのに、趣味や家族の話になると全く興味が持てなかった大学教授とか。

 実際に婚活してみて、私は「いい条件の人と結婚したい」というよりも、「好きな人と巡り合いたい」「誰かと恋愛したい」のだなと、改めて感じました。この年齢でこうした考えを持つことは甘いのかなと自問しました。

――平日の夜と土日の貴重なプライベートタイムを、「実るかどうかも分からない」相手との面談デートや連絡に割かれることも、次第に亜美さんの心身をむしばんでいった。

亜美さん 1日に2回続けて会うこともありましたから、作り笑顔による「人疲れ」がひどかったです。かけた労力に対してリターンがほぼゼロなので、「これって不毛なのでは?」と思いながら続けるのも疲れる原因になっていました。

 また、プロフィールの段階で相手からNGの返事が来ることも多くて、軽く傷つくこともしょっちゅう。例えるなら、ものすご~く細い針でチクチク刺される感じですが、刺される回数が増えればそりゃ血が出ますから。そんな毎日です。

 相談所からは「亜美さんのご経歴がねぇ、高過ぎるから」と濁されたものの、明らかに年齢でアウトなんだと察しがつきました。それに海外経験があるとはいえ、欧米で小ぎれいな環境下ではなく、ゴリゴリの発展途上国での仕事でしたから、それもゴツい印象を与えているのだろうなと感じました。

 次第に相談所も持ち玉がなくなってきたのか、紹介される頻度が減ったり、一回り上の男性が増えてきたり。会えば会うほど時間もお金もメンタルも消耗し、はたから見ても顔色が悪くなるほど疲弊していったのです。

「僕、婚活やめますわ!」50人目との運命の面談

――相談所からの紹介だけでは厳しいため、地方に住む母親のつてでお見合いをしてみたり、気になるイベントの懇親会に積極的に参加してみたり。しかし、魅了される相手には一向に出会えなかった。

亜美さん 婚活中の友達と女子会で近況を報告し合うのが目下の楽しみでしたが、半年、1年がたって苦戦してくるともう愚痴の言い合いです。ストレス発散にはなりましたが、この時間も次第に不毛なものに思えてきました。

 私の場合、パートナーを追い求めれば追い求めるほど遠ざかっていくような気がして……。それに婚活というのは、シビアに「結婚相手を求める場」なんですね。「好きな人を探す場」ではないのです。「好きな人を探したい」などという夢見がちな私には、そもそも婚活というスタイルは合っていない。このルートからは、「出会いはもたらされないのでは?」と思いました。

――それでもまだ確証は得られず、最後の望みに懸けて、紹介された男性との面談に臨んだ。奇しくも婚活を始めて50人目だった。だが、その出会いこそが、亜美さんの迷いを断ち切ってくれるきっかけとなった。

亜美さん 無口な男性だったので、私のほうから質問していったんです。「趣味は何ですか?」「どんなことをしている時が楽しいですか?」と聞いていくと、それなりに答えてくれましたが、私への質問は一切なく……。「僕、今の生活に満足してるんですよね」などと言うので、「じゃあ、なんで婚活を始めたんですか?」と突っ込むと、「そうですね~なんでですかね~」とのらりくらり。

 らちが明かないので、「○○さん、本当は婚活したくないのでは?」と一撃を食らわすと、男性は一瞬考え込み、ハッとした表情でこう言ったのです。

「亜美さん! そうかもしれません! いや~気付かせくれてありがとう。僕、婚活やめますわ!」

 「え、え~!?」と二度見した後にズッコケました。「というわけなので、もう帰りますね!」と、さっそうと帰っていく後ろ姿を見ていたら、なんだか笑えてきまして。一人残されて、急に何もかもがバカバカしくなって「私も婚活やめよ」って思ったんです。

 最後の最後に男性の心を救って、同時に私の心も救われたという(笑)。無理して続けていた婚活を「もうやめていいよ」と肩をたたかれた気がして、ふっと楽になりました。そういう意味では、やめる決断を後押ししてくれた「運命の相手」と言えるかもしれません。