通勤が苦手な女性は、多い

 「体調によって通勤が本当につらいと感じる女性は多く、通勤を避けるために在宅フリーランスへというケースが散見されます」と、その保険コンサルタントは教えてくれました。それを聞いて「そりゃそうだよなぁ」と納得感の大きかったこと!

 私もフリーランスですが、通勤ラッシュ時の電車が大の苦手です(得意な人なんて誰もいないでしょうけれど)。

 個人としての輪郭を失い、何百人もの人々と混然一体の「肉塊」となって空間に限界まで詰め込まれ、荷物がデカいだの足を踏んだだの触っただの臭いだのウザイだのと、お互いに殺気立ち不信感をパンパンに膨らませながら、それでも目的地までただひたすら黙って耳栓(イヤホン)をし、誰とも視線を合わせないようにしてスマホや電子書籍リーダーに精神を逃避させ、自分の擦り切れそうな忍耐力を今日も懸命に叱咤(しった)する「痛勤」時間。
 都市生活者の幸福度を最も損なうストレスは通勤だそうですが、もっともだと思います。限られた時間とはいえ、必ず毎朝毎晩メンタルもフィジカルも大きな負担を受けて、削られる。そんな殺気立った肉塊に毎朝毎晩必ずならねばならない人生は、どんなに稼いでいようがどんなに偉かろうが、そりゃ幸福度が大いに損なわれているよね、と。

 そういえば日本のニュースやネット論議って、電車内のいざこざや事件、マナーに関するものが多いことに気付きませんか? こんなに「車内」の出来事をメディアでああだこうだ言っている国は他にないのではないか。それは、日本の都市圏は(中でも東京は際立って)交通機関としての鉄道への依存が大きく、私たちが電車の中で過ごす時間が長いからなのではないかと思うのです。

 人口も物質も情報も、異様に偏った密度を示す国、日本。似たような時間帯にものすごい人数が似たような動線で似たような目的を持って大移動。生活のための必要悪? 稼ぎや組織での出世とトレードオフ? 「大人なら」そういう生き方は仕方ないと受け入れて、文句言わず共存すべき?

 いや、ちょっと疑ってみませんか。もう日本は高密度な働き方に経済成長を委ねる高度経済成長期も安定成長期もとっくに過ぎて「失われて」20年。すっかりデジタル化の進んだ2018年の現代なら、自分次第でもっとストレス少なくスマートに、自分らしく働くことって可能なんじゃないだろうか。

 まして肉体的にも華奢(きゃしゃ)な女性ならなおさら、日々の「痛勤」に削られ、それこそ折れてしまうこともあるでしょう。そういう負担は「いらない負担」ですよね。女性専用車両があればそれで解決ノープロブレム、って話でもないんです。

日本人、わざわざ精神的にきつい状況で闘っていませんか?

 もちろん「痛勤」の負担は、女性に限ったことではありません。男性でも通勤が本当に苦痛だと思っている人はたくさんいます。「それ理由」の引っ越し、独立、転身、移住など、枚挙にいとまがありません。みんな、自由と「自分らしい人生」を求めているんです……。

 だから働き方改革の中でも、働く場所の自由の拡大という側面は、実に大いに日本人の助けになると思います。時短制やリモートワークの普及しかり、裁量労働制や労働シェアの導入しかり、副業やフリーランス化のトレンドしかり。もっと人の密度の低いところで、ゆったりとした空間で、きれいな空気を吸って、余裕ある人間関係の中で働きたいんですよ、ひとは。

 それを心の底では求めながらも、「そういう働き方は正解や王道から外れた『事情のあるひと』『特別なひと』のもの」との謎だらけの価値観で、わざわざ日本人は自分たちをキツい状況に縛り付けてきたのです。だからその意味で、働き方改革は日本人の意識改革でもあるのですよね。

 会社側から復帰しづらいオーラを感じる産休育休からの復職時や、通勤が苦痛な「痛勤」問題などは、自分が本当に求める働き方や人生って何だろうと考えるに足る、大きなきっかけ。「女性が精神的にきつい状況で闘っているのを肌で知ることによって、今は社会にいろいろな働き方があるのだから、無理しなくていいと思えました」と、先ほどの保険コンサルタントは語りました。