1986年に集英社の少女漫画誌「りぼん」上で連載を開始してたちまち看板作品となるほどに人気を博し、その4年後にはアニメ化、そして国民的長寿番組へ。今やその名を聞いて主人公の顔が浮かばない人はいないのではないかと思われるほどの認知度を持ち、誰からも愛される「ちびまる子ちゃん」の作者、さくらももこさんが急逝されました。

 乳がん、そして53歳との報道。かつて「りぼん」で連載開始の瞬間を目の当たりにし、同時代の少女漫画をもりもり読んで育った一読者の私は、りぼんマスコットコミックスで通巻最高発行部数(3000万部以上)を記録したというあの「さくらももこ大先生」が自分よりたった8歳上で、しかも男の子のお母さんで、10年以上にわたって乳がんと闘いながら創作活動を続けていたことを初めて知りました。

 かわいらしい絵柄の中に鋭いアイロニーとペーソスを滑り込ませ、昭和の子どもたちの日常を通して人生を描く連載作品を定期的に産み出していたさくらももこさんは生身の一女性であった、という当たり前のことに、今さらながら改めて気付かされたのです。

「ちびまる子ちゃん」が他の漫画やアニメと違うところ、それは…

 「平成のサザエさん」とも呼ばれ、老若男女の隔てなく国民的人気を博す「ちびまる子ちゃん」ですが、漫画を読み、アニメを見て育ってきた私たちはちびまる子ちゃんが決定的にアニメのサザエさんとは違う点を知っています。

 それは「毒」です。

 ちびまる子ちゃんが「さえない町の、さえない私たち・僕たち」の屈折と毒のある感情を描き、でもその延長線上で必ず私たちの成長と、「愛とか信頼だなんて大げさに呼ぶのも恥ずかしい、だけど詰まるところそうとしか言えないお互いの『いい感じ』」をずっと丁寧に描いてくれたことで、私たちは「いい子」や「イケてる子」ではない自分の側面を「それでいいんだ、そういうものなんだ」と肯定して育つことができたのではないでしょうか。

「ちびまる子ちゃん」が私たちに与えてくれた価値観とは (C)さくらプロダクション
「ちびまる子ちゃん」が私たちに与えてくれた価値観とは (C)さくらプロダクション