意地悪もダメな部分も、人間のリアリティーを笑いで肯定してくれた

 優しくて楽しいけれど、意地悪な部分やダメな部分もたくさんある家族やクラスメート。この人間のリアリティーを、まる子の三白眼と顔に走るタテ線と流れる汗にねじ曲がる口角の表現で「しょうがないなぁ」と笑いにし肯定してくれる少女漫画の登場で、世間のリアルな少女たちはふっと楽になり、思春期らしい潔癖さで自分と他人を傷つけてしまうことなく自分も他人も許せたのではないでしょうか。うん、笑いって大事なんですよね。

 優等生やお金持ちやスポーツマンやモテのような分かりやすいヒロイズムと、お人好し、偏った正義感、毒舌、卑屈、自己チューのようなアンチヒロイズムは同じ空間に共存している。禍福は糾(あざな)える縄の如(ごと)しの言葉通り、シリアスなトラウマ話は「イイ話ダナー」にも転じ得る。自宅が全焼した過去を持つ毒舌たまねぎ頭の永沢クンや、「クックックッ……」とほくそ笑み「言えやしない、言えやしないよ……」とつぶやく、本当は名前が笑子(えみこ)でお笑い好きの野口さんなど、そんなダークなキャラがカルト的な人気を得るのは、読者・視聴者の共感がそこにある証しでもあります。

私たちの「さえなさ」に「それでいいんだよ」と教えてくれたのが「ちびまる子ちゃん」でした。あなたはどのキャラクターが好きでしたか? (C)PIXTA
私たちの「さえなさ」に「それでいいんだよ」と教えてくれたのが「ちびまる子ちゃん」でした。あなたはどのキャラクターが好きでしたか? (C)PIXTA

 漫画で一番印象に残るキャラクターとは、共感や思い当たる節があったりで自分の心が動いたキャラクターであるわけですが、「ちびまる子ちゃん」で自分が最も印象の強いキャラクターを思い出すと、自分の何かが占えるのでしょう。

 ちなみに私は自分とよく似た名前を持つ真面目な「たまちゃん」に親しみを持ちつつも、キャラとしては完全に永沢クンに共感していました。あの屈折ぶり、小理屈をこねるねじ曲がった性格にこそ、私には本質的に思い当たるものがあったのだと思います(笑)。

 さくらももこ先生の訃報に接し、今またさらに注目を浴びた「ちびまる子ちゃん」の世界。平成最後の夏に昭和を振り返ることになったのは、何か意味があるのかもしれません。

文/河崎 環 表紙画像/さくらプロダクション 写真/PIXTA