あっちの岸とこっちの岸を自由に行き来する
30代後半のワーママが笑います。
「今、私の周りでは第3次結婚ブームなんですよ! 30代後半で、初婚もあれば2度目の結婚もある。仕事も人生もキャリアを重ねた人の結婚話が増えました。第1次は25、6歳、第2次は28、29歳くらいで、そして今。一方で、大学卒業後にすぐ結婚して専業主婦になった友人は、離婚を経て、今バリバリ働いて活躍中だったりして。数年もたてば、未婚だの既婚だのワーママだの経営者だの、女の状況なんてどんどん変わるものだなぁと感じます。女の人生ってきっと、1周目、2周目、3周目で見える景色が違うんでしょうね。1周している間に、それぞれにいろんな出会いや変化があって、再会したときには一回り大きくなっている。互いに相手を慮れる余裕も出てくるんだろうな、と」
きっとこの調子でいけば40代後半くらいに女友達でまたワイワイ集まるのかな、と懐かしそうに、少しうれしそうにぽつりとつぶやく彼女に、私は心の中で「あなたも対岸の誰かを寂しい切ない思いで見ていたことがあるんですね」と声を掛けました。
そうなんです、もう40も越えるとたくさんそういうケースが出てくるのですっかりスレてしまいますが、今の世の中、結婚って人生に一度っきりなんかじゃないし、全っ然(笑)!
独身側の人が川を渡って既婚側に来ることもあれば、一度「奥さん」「お母さん」になった人が独身の岸辺に戻るなんていうのも本当に多くて、あの頃の私が超シリアスにエモーショナルに「もう永遠に同じ岸に立つことはないんだわ」なんて絶望して涙してたのがアホらしくなるくらい、女があっちの岸とこっちの岸を自由に行き来する、いい時代になったんだなと思います。
本当にねぇ、再婚や再々婚で「幸せで〜す!」なんて宣言する同級生のピカピカに輝いた表情をSNSの写真で見たりすると、「よかったねぇ、幸せになってよ」とのエールを全身に込めて送りたくなる。だって女は回遊し、自分が置かれた状況に適応してその水の中で生きることができる、強い生き物だから。
小説「対岸の彼女」の中で、独身女社長の葵は小夜子の辞職に傷つきつつ、こんな希望も持っていました。
(「対岸の彼女」角田光代著より引用)
そしてラスト、小夜子が葵の元を訪ねて「再就職」することになった時。小夜子の目の前にはとある景色が浮かびます。夏草が生い茂る川沿いの道、川向こうを笑い転げながら歩く制服姿の女子高生と、高校生の小夜子がお互いに橋に駆け寄っていく。
「対岸の彼女」たちはそれぞれ自分から走り寄り、橋の上で出会うのです。
文/河崎環 写真/PIXTA