子どもをかわいいと思えず、夫とも大げんかを繰り返す産後うつ一歩手前の状態から、仕事を始めることで脱出した宮澤さん。「仕事をすることが、ものすごく楽しかった。そして、『子どもが本当にかわいい』と思えるようになりました」と率直に語ります。

――子どもが小学生になると、専業主婦をしているお母さんにたくさん出会います。私自身は専業主婦を楽しむことができなかったので、楽しそうで羨ましいなと思うこともあります。一方、専業主婦のママ友からは「子育てしながら働くなんてすごい」と言われる。でも、私にとってはこっちのほうが楽。専業主婦は、人によって向き不向きがあるんだと感じています。

――子育てをしたことで、仕事でも優先順位をつけるのが上手になりました。以前は、何でもやります! と残業もよくしていましたが、今は安請け合いはできません(笑)。「一人で完璧にこなさなくてもいい」「人に頼っていい」ということを、育児を通して、子どもたちに教えてもらえました。それに、「自分が選んだ道(専業主婦)でも、違っていたら方向転換していい」ということも。これは今、人材育成でも生きています。「分からない」と感じる人の気持ちも理解できますし、人によって感じ方が違うということを、身をもって知りましたから。

(『パートからニトリ正社員に 専業主婦をやめた後の人生』)


 一度は自分から専業主婦を選び、暗黒時代を経て方向転換をしたことを「失敗はしましたが、必要な失敗でした」とも振り返っています。

 「お母さん」の、いろいろな形。後悔のない宮澤さんの姿には、いまもこれからも自分らしく生きていく静かな自信が感じられるのです。

 この記事を読んだ20代、30代の未婚女性たちはこんな感想をくれました。

「自分の意思、家庭環境、周囲の意見……さまざまな理由で、『専業主婦になるか働くか』を選択するのだと思いますが、結局は「生きたい人生を歩むこと」が、自分も家族(周りの人)も幸せにするんですね。仮に自分が選んだ道が合っていなかったとしても『必要な失敗だった』ととらえられるポジティブさを忘れないようにしたいと感じました」(20代半ば)

「私は『理想の母像』に葛藤する部分よりも、キャリアの部分が印象に残りました。選択を少し間違えたぐらいで、キャリアの道は閉ざされないんだなと、勇気づけられましたし、気持ちがラクになりました。『お母さんたるもの、こうあるべき』という世間の目があっても、お母さんはそれぞれにみんな一人だけで(事情があれば別ですが)、みんな自分の家族のことしか分からない。それで幸せが成り立っているならいいじゃないかと、共働きで育ち、現在独身の私は思うのです」(30代前半)

私たちはみんなの理想じゃなくて、「わたしの生きたい人生を歩みます」 (C)PIXTA
私たちはみんなの理想じゃなくて、「わたしの生きたい人生を歩みます」 (C)PIXTA

 「自分が生きたい人生」がどんなものなのか、若くしてその全容がすっかり見えている人なんて、なかなかいません。予想もしなかった物事や人に出会い、思いがけない事態に巻き込まれながら学ぶ。誰もが迷っては立ち止まり、一度はエイっと若さに任せて描いたはずの夢に微調整と修正を繰り返して生きていくものです。そうやってカスタマイズした人生こそ、よりあなたらしく、あなたにしか描けない人生のはず。

 失敗は怖くありませんし、失敗はしてもいい。失敗したからと「私なんて」と閉じこもってしまうのではなく、そこから学んだ教訓をもとにリカバーする勇気を失わないことのほうが、女の人生にははるかに大事なことのように思います。

文/河崎環 写真/PIXTA