天才音楽家・小室哲哉が、引退した……

 90年代邦楽の代名詞でもあり、希代のヒットメーカーであった小室哲哉さんが、週刊文春による不倫疑惑スクープ(本人は明確に否定)を受けて自発的な音楽活動からの引退を表明しました。突然の引退会見で本人の口から語られた、あまりに詳細で正直な「天才音楽家の現在」は、ファンもそうでない人も、多くの人々が胸を震わせるような内容でした。

2018年1月19日、一人の天才音楽家が引退を表明しました(C)PIXTA
2018年1月19日、一人の天才音楽家が引退を表明しました(C)PIXTA

 2009年に著作権を巡る詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けた後、2011年に妻KEIKOさんがくも膜下出血で倒れ、後遺症の残る妻の介護を続ける中での、自身の体調不良と音楽活動の苦悩。C型肝炎治療やストレスによる耳鳴り、摂食障害などの症状を抱え、治療に当たってくれる女性スタッフに心の支えを求めてしまった、と語ります。

 しかも「この数年、男性としての機能がないので、男女関係はありません」とまでの詳(つまび)らかな告白に、かつて中学生時代、「Get Wild」前夜だった80年代のTM NETWORKとそのキーボーディスト小室哲哉に熱狂していた私は言葉を失いました。

 コックピットのような何台ものシンセサイザーに囲まれ、インカムに向かって歌い跳ね回る、繊細でシャイで色白の小柄なキーボーディスト。「ああ、小室さんはあの頃のただ純粋過ぎる音楽マニアそのままで、90年代の大波に乗り、21世紀を迎え、還暦にまで流れ着いたのだ」と。

 渡辺美里の「My Revolution」で作曲家としての小室哲哉を知り、彼のバンドTM NETWORKのアルバムを1stから5thまで全曲歌えるほど通学時間に聞き込んでいた中高生時代から30年以上。むしろ90年代のTKは私が熱狂した小室哲哉ではなく、残念ながら私の耳は離れてしまいましたが、私はTKとなった彼が起こし、彼の周りに起こったこと——「現代のモーツァルト」的な道楽も含め——はどこか「天才のB面、才能の代償」なのだと思い、それを含めてトータルに小室哲哉という人間なのだと理解してきました。