今、国民的エンタメの大河ドラマに異変が起きている

 「私たちが信じてきた西郷隆盛は、本当の西郷隆盛ではない」。まずその前提から滑り出したドラマ「西郷どん」。ですが、「白蓮れんれん」「不機嫌な果実」「下流の宴」「美女入門」の林真理子さん原作、「Age,35 恋しくて」「やまとなでしこ」「ハケンの品格」「花子とアン」の中園ミホさん脚本で世に送り出されたこのドラマは、世間をざわつかせる、特別な新解釈を見せてくれました。

 それは、あの時代の薩摩のエリートなら当然の男尊女卑思想を正面から否定する、西郷隆盛の「女装」や「同性愛」です。

 そもそも原作である「西郷どん!」は、細かな史実の正誤が大好きな歴史オタクの(失礼)男性小説家によるゴリゴリの歴史大長編などではありません。日本で最も女性に対して鋭い観察眼を持つエッセイスト出身の多才な女性作家、林真理子さんによるものです。

大河ドラマ「西郷どん」で、女性目線の史実再話が行われる

 さだまさしさんの「関白宣言」という70年代の歌がユーモア交じりに表しているような、現代ではもはや「マジウケるw」レベルの男尊女卑の代名詞ともいえる九州男児。その英雄である西郷隆盛の生涯を、林さんは女性目線で新解釈を加え、再話しています。特に林さんが焦点を当てて注力したと語っているのは、西郷の生涯3人の妻。九州男児として生真面目でさえあった若き日の西郷が、女性と交わる経験をする前に男性僧侶と関係を持っていたとの記述も、とても印象的です。

 幕末から明治にかけての「偉人」である西郷隆盛の社会的な出世譚(たん)だけでなく、その恋愛や結婚に焦点を当てて語るのは、女性作家ならではの「再話」。人はどういう恋愛や結婚をするか、どのような人とどのような関係を結んでいったかで、社会的な顔とは別の、生(なま)のその人自身が手に取るように見えるものです。

 その原作を踏まえた上で、今度はドラマを見てあっとびっくり。初回放送には、原作にはない中園ミホさんの大胆な脚色が加えられていました。

 西郷の3人目の妻・糸が、子ども時代の西郷とその仲間たちにこっそり混じっていたというシーン。女子であることが見つかると「女だって勉強や相撲をしたい!」と泣きながら去っていく。それに衝撃を受けた西郷が、女性の格好で世間を歩いてみて、「女は道の真ん中を歩いていたら殴られる」「洗濯物さえ、男と女は別に洗わねばならない」「女は、損だ」と知り、問題意識を持つようになるという流れ。

 「厳然たる封建社会だったあの時代の薩摩に、こんなことがあるわけないだろう」。これには、歴史に詳しい視聴者からはもちろん、そうでない視聴者からも賛否両論がありました。