女性の「悩み」を解消してくれる商品やサービスは、どのようにして生まれたのでしょうか。その秘密を探るために、話題のアノ商品を手掛けた女性たちに話を聞いてみると、原点には「自分たちが欲しかったモノを企画・開発した」という共通点がありました。

 連載1回目となる今回は、「外反母趾」や「幅の広い足」に悩む人のための靴ブランド「TRIBECCA」(トライベッカ)を展開している、西山敦子さんに話を伺いました。

写真/稲垣純也
写真/稲垣純也
西山 敦子(にしやま あつこ)
 大学卒業後、調査会社や広告代理店などを経てメーカーに勤務。その後起業し、株式会社エニースタンダードを設立。2018年1月に、「スタンダードな靴」が履きづらい人のための靴ブランド「トライベッカ」をスタート。

◆西山さんの《欲しいをカタチに》ストーリー◆
【悩み】
「パンプス履きたい!」 でも「外反母趾や幅広足で、自分に合う靴がない!」
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【決意】
「履けるパンプスがないなら自分で作ろう」悩みをモチベーションに転換
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【苦労】
会社勤めをしながら、パンプス開発――時間のやりくりの難しさに直面
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【「欲しい」が「カタチ」に】
さまざまな人との出会いに恵まれ、発売開始


長年の足の痛み「とにかく私にパンプスを履かせて!」

 「オシャレに我慢はつきもの」とはいうものの、自分の足に合わないパンプスを履き、痛みを我慢しながら生活することは、女性にとって大きな負担。かといって、オシャレすることを諦めて、履きやすさだけを優先した靴を履くのも、ちょっと違う……。人知れず、こんなジレンマに悩んでいる女性は多いのではないでしょうか。

 今年1月に「トライベッカ」を立ち上げた西山敦子さんも、同じように「足」と「靴」のことで悩み続けてきた女性の一人。彼女自身も「外反母趾」や「幅の広い足」に悩み、自分に合う靴がなくて苦しんできたのだといいます。

 「足については、物心がついたときから悩んできました。7歳から14歳までクラシックバレエをやっていたので、足や足の指に、過度に負担がかかっていたのかもしれません。中高生の頃には、既に何を履いても痛くなるという状態でした」

 大学生になってからも合う靴はなかなか見つからず、当時の流行には欠かせないアイテムだった「パンプス」となると、履けるものを探すのはさらに難しかったそう。

 「もともと幅の広い足だったので、入るパンプス自体が限られていました。運良く入ったとしても、デザインやカラーが気に入るものは、なかなかなくて。その上、どんなパンプスでも歩くと痛みが出てしまうので、常に何かを『我慢』しなければならない状態だったんです」

 社会人になると、この問題はますます深刻化。外部との打ち合わせや商談が多い仕事だったこともあり、TPOに合わせてパンプスを履く機会が多かった西山さんの症状は、どんどん悪化していったといいます。

 「無理して履き続けた結果、痛みが足だけでなく、膝や股関節、腰にまで及ぶようになってしまって……。何とか痛みを解消しようと、整形外科や鍼灸、整骨など、いろいろな病院を回って、『どうやったら痛みなくパンプスが履けるようになりますか?』と、相談もしました。でも、どこに言っても同じことを言われたんです」

 ――なぜ、無理をしてまでパンプスを履く必要があるのか?
 ――パンプスを履くのをやめて、運動靴を履きなさい。

 痛みに耐えきれず相談した病院で、こうした言葉をかけられるたびに、西山さんは複雑な気持ちになったといいます。

ブランド名「トライベッカ」はマンハッタンの「三角地帯」から。「健康な足裏には『三角形のアーチ』があると言われていることにちなんで名付けたそう 写真/稲垣純也
ブランド名「トライベッカ」はマンハッタンの「三角地帯」から。「健康な足裏には『三角形のアーチ』があると言われていることにちなんで名付けたそう 写真/稲垣純也

 「痛いなら、履かなければいい。それは正しい答えではあるんですが、私が求めている言葉ではなかったんですよね。スニーカーを履けばラクになるということは、自分でもよく分かっていました。でも、私は『痛いから履かない』という選択をするんじゃなくて、『どうにかして痛みなくパンプスを履けるようになりたい』から、いろんな病院を回って相談していたんです。

 だから『履くのをやめなさい』という答えは、私の質問の答えにはなっていないと感じて……。自分の問いに正面から答えてくれる専門家の方になかなか出会えなかったので、最終的には、『誰か私を救って! とにかく私にパンプスを履かせて!』というような、ぶつける先のない憤りを感じるまでになっていました」

 何とかして、痛みなくパンプスを履けるようになりたい。
 もっとラクに、簡単にパンプスを履きたい。
 だったらもう、自分で作ろう。
 履けるパンプスがないなら、私が作ろう――

 こうして、長年抱えてきた悩みを行動のモチベーションに変えて、西山さんは「トライベッカ」を立ち上げる決心をしました。