受胎期、胎児期から健康長寿を目指すライフコース・アプローチを

 「体の健康状態だけではなく、認知機能にも問題が起こる可能性があるとなると影響は大きい。これから必要なのは、生まれる前から人生の各時期を通して、疾病の予防と健康な長寿を目指す『ライフコース・アプローチ』です。父親が肥満だと子どもも肥満になりやすいとのデータもありますから、母親だけでなく両親で受胎前から肥満、痩せ、ビタミンなどの栄養素の欠乏を予防することが重要です。受胎前、胎児期、小児期、思春期、成熟期、老年期すべての時期で、健康に気を付けることが健康長寿につながります。多くの病気は遺伝と環境によって起こりますが、特に、胎生期、生後早期の環境によってプログラミングされると、病気の進行が早くなる危険性が生じます。発症前にある程度予測して介入し、病気にならないようにするのが先制医療です。受胎前、胎生期からの予防が重要であることを知っておいてください」

図3:病気にならないためには受胎から老年期までの先制医療が必要(井村さんの資料を基に作成)
図3:病気にならないためには受胎から老年期までの先制医療が必要(井村さんの資料を基に作成)
表1:健康長寿のためのライフコース・アプローチ
表1:健康長寿のためのライフコース・アプローチ

 講演の後の質疑応答で、井村さんが強調したのは、「もしも赤ちゃんが低出生体重児として生まれても、医師のアドバイスを受けながら病気になりにくい環境を整えれば糖尿病、心疾患などは予防できる」ということだ。その方法については本サイトの関連記事などを参照してほしい。

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 一方で、これから妊娠を考える人は、受精前、胎児期に、低栄養やビタミン欠乏、過度の肥満にならないように注意したい。

この人に聞きました
井村裕夫さん
京都大学名誉教授
1931年滋賀県生まれ。1954年京都大学医学部卒業。神戸大学医学部教授、京都大学医学部教授などを経て、1991年~1997年京都大学総長。その後、科学技術振興機構顧問、総合科学技術会議議員として、科学技術政策の立案、調整に関わる。現在日本学士院会員、幹事。胎生期から生後の環境が、その後の健康リスクに大きな影響を与えていることから「ライフコース・ヘルスケア」の重要性を指摘。専門は、内分泌代謝病学、糖尿病学。近著に「医の心―私の人生航路と果てしなき海図」(京都通信社)、「健康長寿のための医学」(岩波新書)などがある。

文/福島安紀 図版/志賀是仁

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