ビタミンDといえば、血中のカルシウム濃度を高めて骨の発育を促す作用はご存じの人も多いだろう。だが近年、免疫力を上げる、糖尿病や認知症、がんなどの病気のリスクを減らし、妊娠しやすさとも関わるなど、その働きが多岐にわたることが解明されてきており、今、世界で最も注目されるビタミンでもある。私たちの体で使われるビタミンDは、魚を第一に、きのこなどの食品からのルートと、紫外線に当たることで肌でコレステロールから合成されるものの二つのルートで供給される。もともとビタミンDが含まれる食品は限られており、人によっては魚の摂取量が減っていることから、日光からのルートの重要性が増している。だが、近年、美肌のために紫外線対策をする人が増え、ビタミンD欠乏症の増加が問題に。しみを増やさず日光の恩恵を得てビタミンDを増やす方法はないのか。国立環境研究所地球環境研究センター主席研究員の中島英彰さんに聞いた。

卵巣機能や免疫力にも関わるビタミンD。シミをつくらずに増やすコツは? (C)PIXTA
卵巣機能や免疫力にも関わるビタミンD。シミをつくらずに増やすコツは? (C)PIXTA

充足する女性は2%、UVカットで増える「D欠乏症」

 「欠乏症にならないビタミンDの1日の摂取量として、米国・カナダの食事摂取基準(2011)では、70歳以下は1日当たり15μg(※1)を推奨しています。日本の国民健康栄養調査(2017年)を見ると、20代~40代の女性は食事から平均5.5~6.5μgしかビタミンDを摂取していないので、少なくとも、残りの約10μgは日光浴で紫外線を浴びて合成する必要があります。日光浴で紫外線に当たると、紫外線B波(UVB)で皮膚のコレステロールが分解されてビタミンDが生成されます。皮膚はビタミンDの生成工場なのです。ビタミンDを含む食品は限られることもあって、人類は、紫外線を浴びてビタミンDを生成することによって健康を維持してきました」と中島さんは解説する。

※1:71歳以上は20μgを推奨。

 しかし、1990年代にオゾンホールの存在が明らかになり、特に若い女性はしみやしわなど美容面への影響も気にしてサンスクリーン剤を塗って紫外線をカットしようとする人が増え、ビタミンD不足が問題になっている。

 大阪樟蔭女子大学の研究チームが、同大の学生など20代前半の健康な女性延べ101人(平均年齢21.3歳)の血液中のビタミンD濃度(25水酸化ビタミンD濃度)を測定した最近の研究では、充足(30ng/ml以上)していた人はわずか2%。81%の女性が、ビタミンD欠乏(20ng/ml未満)だった。極度のビタミンD不足(10ng/ml未満)が17%もいたと報告(※2)されている。

※2:小笠原帆南氏ほか、2017年日本ビタミン学会講演予稿集、「ビタミン」91巻No.4: p.294, 2017.

 若い女性だけでなく、成長期にある小さな子どものビタミンD不足も問題だ。実際日本の3歳児574人を分析したところ、170人の子ども(約30%)がビタミンD欠乏(20ng/ml)だった。しかも、屋外での行動時間(紫外線量)がビタミンD欠乏に有意に相関していたのだ(※3)。

※3:Br J Nutr.2018Nov;120(9):1034-1044