あまり知られていないが、健康診断の数値が正常範囲であっても、その人が妊活を考えている場合は「要注意・要対策領域」になってしまう検査項目がある。国立成育医療研究センターでプレコンセプションケア(妊娠前ケア)外来を担当する母性内科医師の荒田尚子さんに、妊活を順調に進めるために知っておきたい健診でのチェック項目と数値の目安などを聞いた。

高齢出産では生活習慣病のチェックを加えて

 「働く女性が増え、35歳以上で出産する高齢出産はいまや一般的。そうなると、健康なつもりの人でも、年齢的には生活習慣病の芽が出始めている可能性がある」と荒田さん。「生活習慣病の芽は妊娠という負荷によって病気として発症することがあり、それは妊娠経過や赤ちゃんの発育・健康に影響します。こうした病気は妊娠前からの健康管理でリスクを減らせますから、35歳を過ぎて妊活をする人は、卵巣や子宮などの婦人科分野に加え、内科分野もチェックし、病気の芽があったら妊娠前に改善しておくことが大切です」

 ここで35歳と区切っているのは、35歳からが「高齢出産」になるから。妊娠によって発症リスクが高まる病気の芽を持つ人は35歳以上に限ったことではないと荒田さんは続ける。「忙しく働き、きちんと食事が取れていない女性が多い。肥満でも痩せでもなく、普通の体形であっても健康的な栄養状態とはいえない若い人が多いのです。運動を習慣にしている人も少なく、喫煙者も増えている。生活スタイルの変化で、昔と違い、若い世代でも妊娠、出産のリスクが上がっています」

妊娠希望だと、通常の健診より基準値が厳しくなる

 「普通の人なら『問題なし』の数値が、妊娠を希望する人の場合は『要注意・要対策』になる場合があります」(荒田さん)。健診では妊娠したいかどうかでスクリーニングはしないので、そのまま「正常」と診断されてしまうところが落とし穴。

健診で「問題なし」と出ても、妊娠を希望しているなら、注意するポイントがある
健診で「問題なし」と出ても、妊娠を希望しているなら、注意するポイントがある

 では、どの検査項目が要注意なのか。代表的な3項目を紹介する。

チェック項目・その1 血圧

正常範囲でも「やや高め」は要注意

 まずは血圧だ。妊娠前は正常値の人が妊娠中に高血圧になる、それが「妊娠高血圧症候群」だ。発症すると胎児の発育が悪くなったり、母体の腎臓や肝臓の機能障害が起きたりして、結果的に早産や、最悪の場合は赤ちゃんの周産期死亡を引き起こす。妊娠中、健診のたびに血圧測定するのは、妊娠高血圧症候群を早期発見するためなのだ。

 はっきりとした発症の原因は分からないが、35歳以上、初産、BMI(体格指数)が25以上の肥満の人、妊娠前から血圧が高かった人はリスクが高い(*1)。「一般的に、高血圧は予備軍を含め30代から増え始めます。妊娠すると血圧は一時的に下がりますが、その後、徐々に上がってきます。妊娠判明時には異常がなくても、妊娠週数が進むにつれ血圧が上がり、妊娠高血圧症候群に至るケースも」(荒田さん)。

 通常、高血圧と診断されるのは、病院で測定した時、上の血圧(収縮期血圧)140mmHg以上または下の血圧(拡張期血圧)90mmHg以上(*2)。しかし、「上が130~139mmHgまたは下が85~89mmHgの正常高値血圧の場合、妊娠への影響は明らかではありませんが、将来の心血管系のリスクはすでに上がっていると考えられます。プレコンセプションケアでは高血圧の場合と同様、生活習慣指導を行います」(荒田さん)。

 この数値は、普通なら、「正常範囲だが、やや高め」といわれる範囲。だが、このゾーンにいる人は妊娠を機に高血圧になりやすいと考えたほうがいいだろう。

(*1)日本妊娠高血圧学会HP 妊娠高血圧症候群Q&Aより
(*2)日本妊娠高血圧学会の基準

高血圧の人が家族にいたら、妊娠前から血圧測定を

 さらに、35歳以上でBMIが高い、高血圧の家族がいる、運動不足気味、飲酒や喫煙の習慣がある、食塩摂取量が多い、などに当てはまる人は、高血圧の「ハイリスク群」。妊娠に向けて、減塩や減量、適度な運動や節酒、禁煙を心掛け、血圧を下げる努力をしたい。

 荒田さんは「ハイリスクの人は、日ごろから血圧を把握することもコントロールの一助になる」と家庭用血圧計での測定を勧める。「家庭用血圧計は手首用ではなく、より正確に測れる上腕用がおすすめ」。朝と夜の1日2回、朝は起きてから1時間以内のトイレ後、座って1~2分安静にしてから測り、夜は寝る前に座って1~2分の安静後に。妊娠前に129mmHg未満/84mmHg未満の正常の血圧に近づけておきたい。

家族に高血圧の人がいるなら上腕用の血圧計で計測する習慣を
家族に高血圧の人がいるなら上腕用の血圧計で計測する習慣を
●妊活中の人は以下の数値で「要注意」
上の血圧:130~139mmHg または下の血圧:85~89mmHg