「ベネフィット」が早起きのカギ

池田:「私は絶対夜型だ」と自覚している人でもできる、生産性を上げるための朝の習慣はありますか?

西多:光を使って少しずつ睡眠時間を早めていく、つまり入眠時間を早めていく方法があります。毎日8時9時でないと起きられない人が、いきなり5時6時に起きると、強烈な時差が発生してしまいます。

池田:そういう人が、早く起きるためのスイッチにできる習慣や行動はありますか?

西多:東京都では「時差ビズ」をやっていましたよね(注:2017年7月11日~25日に行われていた、通勤ラッシュ回避のために通勤時間をずらす働き方改革。東京都主催)。諸外国でも満員電車と通勤時間の長さは幸福度に反比例することが通説になりつつあります。通勤電車は都市限定の話かもしれませんが、朝早めに起きると通勤が楽になるといった、ベネフィットが重要です。

池田:そういう意味では、明るい場所で朝ごはんを食べる早朝グルメは、動機付けになるかもしれませんね。参加者の中に、早起きするとこんなに時間が使えるのかと驚いている方がいました。私は受験生の頃に「今に見てろよ」という思いで早起きを始めたのですが、朝日を浴びながら空いている電車に乗る気持ち良さや、人が寝ている間に勉強している優越感で気持ちが満たされました。負のモチベーションから始めても、気持ち良さを感じたら続けることができるのではないかと思います。

感情の記録は「朝」に

池田:以前、西多先生から聞いた、脳にとって朝が一番「飽きない」状態だという話が、心にストンと落ちました。

西多:朝は余計な経験が一切なくて、脳も白紙状態ですからね。睡眠で記憶や感情経験が整理整頓されるのです。

池田:きれいになると前向きになったりもしますか?

西多:前向きになったり、判断がしやすくなったりする部分はあります。それが起きてから時間がたつにつれて、脳に書き込みが多くなってきます。注意力には一定の限界があるため、1日のうちでも昼から夕方になるにつれて、鈍りが生じてくるのです。これが、いわゆる「飽きてくる」状態です。

池田:私はよく「夜クヨクヨするより、朝クヨクヨしましょう」という提案をしています。会社員時代に上司に怒られたとき、最初は夜に振り返りをノートに書いていたのですが、ネガティブな点にフォーカスして、「私は何も悪くないのに」といった感情的なことばかり書いていました。それを朝にシフトしたら、同じ事実を書いていても「私も悪かったかもしれない」と、ニュートラルに見ることができたという経験があるのです。それも寝て起きたことによる認知の変化があったのでしょうか。

西多:朝に感情の記録をすると、今日一日の対応を考えて、アクションすることができます。朝は対策を考えないと活動が差し迫っていますからね。夜は活動が迫っていないため、ひたすら考えてしまうのです。悩み事があって眠れないという不眠症の方には、「日中に同じことを悩んでください」と指導することもあります。

――日経ウーマンオンラインの読者でも、睡眠に不安を抱いている方が多くいます。

西多:不眠症の人は夜になると頭がさえて、入眠が遅くなるんです。そうすると、朝はぼーっとして、食事どころではなくなるというサイクルになります。そのリズムが固定されているため、多少は行動で変えていくしかないですね。明るい所で朝ごはんを食べるというのも、方法の一つです。

池田:リズムとしての朝食ということですね。

プロフィール
西多昌規(にしだ・まさき)
精神科医/早稲田大学准教授
西多昌規(にしだ・まさき)
1970年石川県生まれ、東京医科歯科大学卒業。東京医科歯科大学助教、自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員研究員などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授。精神科専門医、睡眠医療認定医。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に「脳を休める」(ファーストプレス)、「『テンパらない』技術」(PHP文庫)など多数。

池田千恵(いけだ・ちえ)
株式会社 朝6時 代表取締役
池田千恵(いけだ・ちえ)
2009年発売「『朝4時起き』で、すべてがうまく回りだす!」(マガジンハウス)がベストセラーとなり、「朝活の第一人者」と呼ばれるようになる。現在は「早朝グルメの会」主宰、企業や自治体に対する生産性向上施策の提案、「グッドモーニングアワード」(朝時間.jp主催)の審査員など幅広く活動中。「書いて共有!チーム・プレゼン会議術」(日経BP社)、「朝活手帳」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

聞き手・文/飯田樹 写真/小野さやか