いい人とクソメンの違い

 多恵さんに対するアドバイスの中で言われているいい人クソメンをまとめると、次のようになるかと思います。

いい人=恋愛の対象としては物足りないけど、結婚向きな人。
クソメン=恋愛の対象としては最高だけど、結婚向きじゃない人。

 結婚向きというのはおそらく、性格が穏やかで結婚願望があり、安定した職についていて人生設計がしっかりしている……くらいの意味でしょう。つまるところいい人とは、結婚するための常識的で「普通」のスペックを兼ね備えた男性のことです。多恵さんにアドバイスをするアドバイザーたちが自分の正しさに(おそらく)何の疑問も持たず断定的に発言できるのも、その背後に常識や普通という大いなる存在が鎮座しているからです。

 さらに言うとアドバイザーたちは、その常識の中での恋愛 → 結婚レースを一足先に走り終えているため、先輩としての “良き体験”をもとに「あなたもそうした方がいいよ」「今のままじゃ幸せになれないよ」と心からの言葉を発しているのだと考えられます。

 この構造は、新興宗教やマルチ商法の勧誘によく似ています。

なぜ勧誘を無視できないのか

 多恵さんがこの勧誘を無視できないのは、「現に彼氏いないでしょ? 結婚できてないでしょ?」と弱みにつけこまれて焦りが生まれているからでしょう。その結果として、多恵さんのなかにも、ちょっと変わった相手より普通が一番なのかなという気持ちが顔を出しているのだと思います。だから勧誘の言葉を全否定もできないし、完全に迷惑だとも思えないわけです。

 また、このいわば“普通の結婚教”では、とにかく結婚していることが善であるため、30歳を過ぎて結婚できていない場合は何か問題アリとみなされがちです。そのため多恵さんは「自分はわがままや贅沢を言っているだけなのではないか」といった謎の負い目のようなものを感じてしまっており、この点も多恵さんが勧誘をスルーできない理由のひとつになっているように見えます。