なぜ、「ケチ」ととらえてしまうのか

 そもそも明子さんはなぜ、彼の価値観を「ケチ」という否定的な言葉でとらえているのでしょうか。

 その原因を考える手がかりになるのが、相談文の中の「球場の屋台で食べ物を買うのが楽しみだった」「『せめてビールは生がいいな』と思っていた」という言葉です。

 ここには、彼とのデートに対する明子さんの期待感が現れています。

 しかし彼は、明子さんが期待していたようには動いてくれませんでした。“楽しみにしていたのに”“生がいいなと思っていたのに”そうならなかったという失望は、期待が膨らんでいたぶんだけ大きかったのでしょう。

 また、明子さんはこれらの要望を心の中で考えているだけで、彼には伝えていないようです。たぶん明子さんには“彼は言わずもがなでわかってくれるだろう”という期待がどこかにあったのではないでしょうか。その期待もまた失望に変わります。

例外的に合わないという認識

 同じようなできごとが何度かあったことで、明子さんのなかには、“彼とは食に関する価値観だけが例外的に合わない”というネガティブな認識(ケチ)が固定化されたのだと思います。

 これは、白いシャツにシミがつくと目立つことに似ています。

 地が真っ白だと、どうしてもシミ(=違い)が目についてしまうものです。

 ここで注意したいのは、相談文を読む限りでは、食以外のこと(=白いシャツ)に関しては、価値観ではなく「話が合う」レベルだということです。明子さんと彼が出会ったのは最近なので、これは当然とも言えます。

 そんな中、食だけが価値観に突っ込んでいるのは、食は明子さんの思い入れが強く、重視していることだからでしょう。他のことに比べて、解像度が高くなっているのだと思います。

 少し長くなってしまいましたが、以上が我々の推測した、明子さんが彼の価値観を「ケチ」という否定的な言葉でパッケージしてしまう理由です。

 次のページでは、この否定的な言葉を取り払う方法について提案したいと思います。