生産性向上のため在宅勤務の拡充も検討

――今、優秀な人材を定着・保持するという“リテンションマネジメント”が注目されていますが、離職抑制に対する取り組みはしていますか。

福島:当社の離職率は業界の中では低い方ですが、やはり女性社員に関しては、長時間労働が恒常化している状況で育児をしながら働き続けることに自信がないと離職していくケースもあったんですね。私も10年前に、非常に優秀な女子社員の部下が、やはりそうした不安から退職してしまい、非常に悔しい思いをしました。そうしたことを二度と繰り返さないように、育休や時短、在宅勤務を当たり前のものとして定着させていくつもりです。

 ただ、育児や介護の両立支援制度自体は、比較的整っていると思います。例えば、育児休業は最大2年間取得可能であり、短時間勤務と併せて最大6年間取得可能ですし、年休取得の残りを有休に積み増し育児などの休暇として利用できる「福祉休暇」では、中学校卒業までの子の育児(看護や学校行事参加)、および妊娠期特有の事由により取得することが可能です。

 これらの両立支援制度の活用による離職抑制に加え、積極的な採用を行いつつ、まずは、女性の母数自体を増やしていくことが最大の課題だと認識しています。

――最近では、男性の昇進意欲も若干減っており、その理由として「働き方の多様性と柔軟性がないことに対する徒労感」があるといわれます。在宅勤務の拡充などはどう考えでしょうか。

福島:現在は両立支援制度の一つとして位置づけてあり、育児中(小学校3年生まで)か、家族が要介護状態にある社員を対象に、最大週3日までの自宅勤務を認めています。係長級の手前の資格である主任以上のみを対象としており、主任は週1日、係長級以上であれば週3日と取得上限を設けています。将来的には、生産性向上のための在宅勤務の拡充やサテライトオフィスの設置などを検討しています。

――女性活躍推進の取り組みについては、どのように進めていかれるのでしょうか。

福島:当社の働き方変革の大きな柱が「ダイバーシティ&インクルージョン」。持続的な成長のために女性の活躍は欠かせないものであり、働き方変革とセットで進めていきます。

 現状、抱えている課題としては、部長・課長職に相当する「基幹職」候補となる「上級専門職(係長級に相当)」の女性社員が少ないこと。そのため、「新卒を中心とする女性採用の拡大」「順調なキャリアアップ」「離職抑制」の3つに取り組んでいく必要があると考えています。まずはここ数年20%台だった女性の採用比率を、2017年入社は1.5倍増にします。さらに女子学生への認知を高めるため、女子学生向けの媒体やイベントに参画するなどの活動も予定しています。

――「順調なキャリアアップ」のために、どういった育成プログラムを用意してますか。

福島:男女を問わず20代の社員を対象とした若手育成の教育制度や研修カリキュラムを充実させ、キャリアアップの意識づけをしています。具体的には、入社後の3年間を育成期間と定め、本人と上司が対話しながら育成プランを作り、ここにキャリアカウンセラーも同席して三者面談を行う機会を毎年設けています。この面談では、本人の成長を振り返り、次の目標に向けてステップアップしていくための意識の醸成を促しています。そして入社4年目になると育成期間の締めくくり研修を行い、それまでの3年間を振り返るとともに自分自身のキャリアビジョンを描きます。若いうちからしっかりとキャリアアップの意識を持ってもらうことが目的です。

 そして、今ある育休や時短などの制度にしっかりと魂を入れ、組織風土として当たり前のものにしていくことで、離職を抑制していきます。

 今年度からは新たに「育休相談窓口」を設置。以前から、女性社員交流会という社内コミュニティで育児相談などの情報共有を行っていたのですが、そこに人事が入り、相談窓口を準備しています。育休を取得することでキャリアに影響があるのではと悩む人に、育休はキャリアのハンディにならない、能力次第でキャリアアップが可能だということを伝え、働きがいにつなげていきます。

――女性の基幹職については、どのように増やしていくのでしょうか。

福島:今年度の取り組みとしては、社内調査によるキャリアアップの阻害要因を分析し、それに対応する施策を検討します。2020年度までに、係長級以上の女性社員比率を現状から倍増し、10%に、課長職以上の基幹職比率を、現状から30%増やすことを目指しています。

――今年から働き方改革を本格化させ、新たな施策をどんどん展開していくのですね。

福島:8月には、会社の経営層を対象に、専門家による働き方改革のセミナーを予定しています。ハンドブックやポータルサイト、社内報でもメッセージを発し、現場のモチベーションをあげていきたいですね。我々が目指す新しい働き方の姿を、リアルな言葉でしっかりと伝えていくことが大切だと思っています。

<最後に>
「現場の働きがいを高めるためには“押しつけられ感”があってはダメ」と福島取締役。働き方改革を進めるカギはまさに現場の納得感だ。現場ヒアリングで浮かびあがってきたのは、長時間働きながらクリエイティブに成果を出す人の存在であり、また、労を惜しまずに品質の高いサービスを提供し顧客に喜んでもらうことに働きがいを感じる社員が非常に多かったということ。そういう人たちに一律に“労働時間を減らせ”といったところで違和感を持たれてしまう。だからこそ年単位でメリハリをつけながら総労働時間を削減するような、自社にあった新しい働き方の軸を作っていくことが必要だと語る。最近、長年現場で活躍していた人をいきなり人事担当に抜擢する動きがある。本人も周りもびっくりするサプライズ人事だが、結果として、前例主義、成功体験にとらわれず、現場に即した新たな施策を打ちだし成果を上げた事例も多い。「将来に向けた私たちらしい働き方」をどのように打ち出すのか、注目したい。(麓幸子=日経BPヒット総合研究所長)


(2016年8月5日にサイト「日経BPネット」 コラム「麓幸子の「ダイバーシティ&働き方改革最前線」に掲載された記事を転載しています)

『女性活躍の教科書』

女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことを分かりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している
著者 : 麓幸子、日経ヒット総合研究所編
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)