すべて一律で「総労働時間を減らせ」では現場は違和感を持つ

――社員の価値観も多様化する中で、働き方改革を進めていくのは一筋縄ではいかないと思うのですが、どのように取り組んでいるのでしょうか。

福島:この4月から14の事業部で現場ヒアリングをしています。まずは、各事業部長にヒアリングの趣旨や課題の共有を話した上で、部署内で厳しい働き方をしている現場の人たちと個別に話を掘り下げており、その結果、いくつかのパターンが見えてきました。

 一番よく聞くのは、最初の見積もりの正確性に問題があるケース。我々が関わるのは、システム構築の大きなプロジェクトがほとんどですから、工程や予算、投入人数などを見誤ると、現場の負荷が高くなってしまう。ですが、顧客に迷惑をかけるわけにはいきませんから、現場で働く人たちは労働時間をオーバーしても目の前の課題に対応します。そうした場面を現場任せにせず、組織的にリスクを取り除くなどのフォローをしていく仕組みやマネジメントが大切だと思っています。

――実際に、そうした現場を経験してきたからこそ、福島取締役はリアルな現状認識ができるのでしょうね。

福島:ヒアリングで見えてくるのは、ほとんどの人たちは、非常にやりがいをもって働いており、その結果、労働時間が長くなっているんですね。さらに、お客様にサービスインすべき納期などが決まっているなかで、単に「労働時間を減らせ」と言われても、現場は違和感を覚えてしまう。

――確かに、二律背反するようなことを言われていると感じるかもしれませんね。やりがいをもって働いている現場の人たちに対して、どのようなアプローチで労働時間の削減の重要性を伝えていくのでしょうか。

福島:まずは“価値観の多様化を認めましょう”と。長く働いてやりがいを感じる人がいてもいい。けれども、制約があるなかで生産性高く働くべき人もいます。自分の価値観を部下に押し付けないように伝えていくことですね。また、やりがいを持って長時間働く人のなかでも、“クリエイティブに成果を出している人”と“単なる仕事習慣として長く働いている人”との2パターンあります。後者に対しては、メリハリのある働き方をマネジメントしていく。すべて一律で、“総労働時間減らせ”では、現場からすると“分かってない”というギャップ感を持たれてしまう恐れがあります。

――一方、長時間クリエイティブに働いて成果を出している人たちには、どのように理解してもらいますか。単なる仕事習慣の人よりも伝え方が難しいのでは。

福島:やはりメリハリのある働き方をマネジメントしていくことが大事です。ひとつのプロジェクトが終わった後は、すぐに次の仕事をアサインするのではなく、少し休むなど、年単位でメリハリをつけながら、総労働時間を去年より短くするなど工夫していく。

 そのためにも、我々の目指す“新しい働き方”の軸を作り、伝えていく必要があります。今年の下期からは、私が各事業部へ赴き、キックオフミーティングの場で、社員に直接語りかけるべくでプレゼンできるよう、ストーリーを作っている最中です。

――メリハリの効いた働き方を進めるには、上司のアサインメントも重要です。そうした仕組みを人事が介入して進めていくのですか。

福島:実は今も、事業部の年度毎の評価のなかで、定性評価として総労働時間や深夜就業の削減といった働き方に対するKPIを設けています。それにより、各ラインにおいて一人毎の総労働時間の分布などを各事業部長が認識していますが、今後はそれをいかに改善していくかを可視化していくつもりです。とはいえ、部署によっては、顧客の業務に合わせて深夜にプログラムをリリースしたり、顧客に合わせたシフト勤務で土日出勤する部署もありますから、KPIもすべて一律ではなく、全社一律のものと、部署ごとの個別KPIとに仕分けしながら進めていきます。

――現場の状況に合わせて“一律なもの”と“個別なもの”に仕分けしながら施策を進めていく。現場で働く人たちの納得感はいかがでしょうか。

福島:現場の働きがいを高めるためには、“押しつけられ感”があってはダメだと思うんです。自分の声が反映されていると思えば働きがいも違ってきます。現場にとっては、管理側が決めた細かいことでも大きな負担を感じてしまう場合もありますから、それぞれに添ったやり方を尊重しつつ、良いものは全社的に展開していきたいですね。

 現場のヒアリングでは、対顧客ではなく、“社内の仕事をいかに効率すべきか”という声が多く挙がっています。例えば、社内会議の多さや長さに課題を持つ部署も。私が以前いた事業部では、最初にレジュメを配ってゴールを決め、時間厳守でクローズしていく方法をとっています。このやり方は、労働組合のメンバーが働き方改革の活動の一環として作った「会議の原則」に基づいたものなのですが、こういった効率化はどんどん取り入れ、全社展開していくのもいいなと考えています。