福島など全国8カ所でオーガニックコットンの栽培を始める

2011年の東日本大震災のときに、東北の女性たちを支援するためにはじめた「東北グランマの仕事づくり」(写真提供:アバンティ)
2011年の東日本大震災のときに、東北の女性たちを支援するためにはじめた「東北グランマの仕事づくり」(写真提供:アバンティ)

――渡邊さんは「小諸エコビレッジ」を拠点とした事業のほかにも、地方でいくつもソーシャルビジネス事業を立ち上げていますね。

渡邊: 2011年の東日本大震災のときに、東北の女性たちを支援するため「東北グランマの仕事づくり」を始めたのがきっかけです。このプロジェクトでは、宮城県と岩手県の女性たちが手づくりしたクリスマス・オーナメントを販売し、2011年に2万5000個、2500万円を売り上げました。翌2012年に立ち上げたのが、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」です。

――福島でのコットン栽培は、渡邊さんのアイデアだったのですか。

渡邊:そうです。2012年当時、原発事故後の風評被害で、福島県内で栽培した野菜が売れず、耕作放棄地が増えていました。食品ではなく身につけるものなら、線量の安全基準をクリアすれば消費者に受け入れてもらえるのではないかと思って、いわき市で雇用創出の活動をしていた知人に、提案したのです。いわき市内の15の拠点で種が植えられ、草取りや収穫には首都圏から約3000人のボランティアが参加してくれました。

 栽培は今も続いていて、現在、手ぬぐい、タオル、Tシャツなどの一部の商品に国産のオーガニックコットンを5%を使用しています。福島以外にも千葉県御宿、長野県上田市、愛媛県松山市、宮崎県高鍋町など、オーガニック綿花の栽培地が全国8カ所に広がりました。最近は、先日被災した熊本県益城町でも新たに栽培が始まっています。

 日本の綿の自給率を、ゼロから少しでも高めて、繊維産業の復活につなげたいですね。

――今後はどんな計画がありますか。

渡邊:今年2016年には、「一般財団法人 森から海へ」という財団を私費を投じて作りました。

 実は今、温暖化の影響で全国の森で鹿の数が増え、下草や芽を食べつくしてしまう「鹿害」が広がっているんです。捕獲もされているのですが、捕獲後の鹿が食用として活用されているのはわずか10%です。「命を粗末にしたくない」という思いから、捕獲した鹿肉でペットフードをつくる事業を始めます。その販売収益は森を守る人々の育成に使う計画です。

――先ほど、エコビレッジの林の中を、草履で軽やかに走り回る渡邊さんを見て驚きましたが、事業でも風を切るように、新しいことを次々と切り拓いていらっしゃいますね。

渡邊:一人一人の選択で、世界は変わります。健康で美しい自然環境を、7世代先の子どもたちにまで引き継げるように、これからも全力で駆け回っていきたいですね。

<インタビューを終えて>
アバンティのオーガニックコットンのTシャツを着るとなんとも言えない清々しさ、心地よさを味わいます。渡邊さんは、オーガニックコットンを通じて社会をよりよく変える活動を30年間続けてきました。「私はアバンティ村をつくりたいんです」。最初にお会いしたときに渡邊さんがこう言ったことをずっと覚えていました。職住接近で女性が生活と仕事を両立することができる村、なんと理想的なところだろうと。その村をようやく訪れることができました。「地元の自然と歴史を築いてきた方の知恵を大事にしたい」と7年かけて地元の人たちと信頼関係を築いたこの小諸市は、オーガニックコットン事業をするのにふさわしい美しいまちです。都会でなければビジネスは成立しない――そんな固定観念を軽々と飛び越え、渡邊さんは事業を進めます。「7世代後」のことを考えながら。オーガニックコットンのシャツを着ると、私自身も「7世代後のことを考えて生きているか」と意識するようになりました。これもオーガニックコットンの持つ力なのでしょうか。(麓幸子=日経BPヒット総合研究所長)

取材・文/吉楽美奈子 写真/大槻純一
(2016年7月28日にサイト「新・公民連携最前線 」のコラム「麓幸子の『地方を変える女性に会いに行く!』」に掲載された記事を転載しています)

『女性活躍の教科書』

女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことを分かりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している
著者 : 麓幸子、日経ヒット総合研究所編
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)