政府は多彩な施策でバックアップ

 「第2次安倍内閣は、発足時から女性活躍を最重要課題としています」と華房審議官。その結果、女性の就業者数は約3年で約100万人増加した。また、若干ではあるが、25~44歳の子育て期の女性の就業率も上昇し、民間企業の管理職の女性比率も上がっている。

 華房審議官は、「これらのデータをもとに、多くのメディアが女性活躍に期待するという内容の記事を書いてくれました。女性活躍啓発のためにも、広く情報が伝えられたことをうれしく思っています」と話す。

 2016年4月1日には、女性活躍推進法が全面施行された。この法律に基づき、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良な企業は、厚生労働大臣のえるぼし認定を受けることができる。評価項目は、採用、継続就業、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコースの5つで、認定段階は3段階に分かれている。

 「単に、採用数や管理職の比率などの数値だけではなく、どのような働き方をしているかが表れるように作られています。厚生労働省のウェブサイトには、女性の活躍推進企業データベースが構築されました。業種別に同じ指標で比較できる点が有用であると、証券アナリストにも注目されています」と華房審議官。

 そして、5月20日に策定された「女性活躍加速のための重点方針2016」では、多様な働き方の推進、男性の意識改革、あらゆる分野における女性の参画拡大・人材育成、女性の活躍を支える安全安心な暮らしのための基盤整備などが盛り込まれた。また、2014年からは「女性が輝く先進企業表彰」を創設し、役員・管理職への女性の登用に関する方針、取組及び実績並びにそれらの情報開示に優れた先進的な企業を顕彰している。さらに、「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」行動宣言の賛同者は120人を超え、行動宣言の3つの柱「自ら行動し、発信する」「現状を打破する」「ネットワーキングを進める」に基づき、企業・団体のトップが取組を推進し、相互に意見交換を行っている。

 経済団体と連携して「ワークライフバランスに関する経営者・管理職向けのセミナーや、ダイバーシティ・マネジメントセミナーも継続開催し、働き方改革の推進方法や実行のために役立つよう努めています」(華房審議官)。

3月7日に開催した「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」行動宣言賛同者拡大ミーティングには賛同者である企業の経営トップなど男性リーダーが多数参加
3月7日に開催した「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」行動宣言賛同者拡大ミーティングには賛同者である企業の経営トップなど男性リーダーが多数参加

 また、講演の終盤に重要な数字が披露された。政府が3月に公共調達に関する新たな取り組み指針を決定したという報告だ。国の事業の入札に際し、女性活躍加速のため、えるぼしやくるみん、プラチナくるみん、ユースエール(若者雇用促進法に基づく認定)認定企業など、ワークライフバランスを推進する企業を優遇すると決定。内閣府の推定では、対象となる契約は、5万から6万件、総額5兆円規模になる見込みという。14年度は36事業約10億円が対象だったため、一挙に大幅に拡大する。えるぼし獲得がステークホルダーにアピール効果があるだけでなく、受注拡大にも結び付くということだ。5兆円という数字のインパクトに会場が少しざわめいた。

 華房審議官は最後に、「政府は様々な方針、取り組み、活動調査を行って配信しているので、ぜひ活用していただきたい。よりよい社会を築くために、女性活躍、ダイバーシティを引続き推進していきましょう」と会場の参加者に思いを伝え、講演を終えた。
内閣府男女共同参画局ホームページ

<最後に>
 「女性活躍企業、ワークライフバランス推進企業は公共調達で優遇、その規模は内閣府の推定で総額5兆円規模になります」――5兆円という数字に会場がざわめきました。

 件数として5万~6万件に上るそうです。5兆円という巨額の国家予算を使い、政府は、女性の活躍拡大やワークライフバランス推進を企業に迫ります。

 今から30年前に男女雇用機会均等法ができました。その前より雑誌記者として、政府の女性政策を追ってきましたが、新法の施行や公共調達での優遇措置を見て、今の政府は本気で女性活躍や働き方改革を進めようとしているなと感じます。

 厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースは、各企業の女性活躍状況に関する情報を一元的に集約したもの。様々な企業の状況が横並びに分かるというのも画期的ではないかと思っています。各企業の女性活躍状況を様々なステークホルダーに見える化することがこの狙いです。可視化により、就活中の学生、消費者、取引先、投資家等の企業選択に影響を及ぼす。市場原理、競争原理が働くことで、各企業の女性活躍が進むだろうというのが政府の描く図式です。新法は10年の時限立法。この間にどれだけ女性活躍が進むのか、ウォッチしていきたいと思います。(麓幸子=日経BPヒット総合研究所長)

 

取材・文/芦部洋子 写真/辺見信也
(2016年7月6日に「日経BPネット」コラム「麓幸子の「ダイバーシティ&働き方改革最前線」に掲載された記事を転載しています)

『女性活躍の教科書』

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