訪問看護ステーションは「駐在さん」のように地域に安心を与える存在に

――「訪問看護ステーション」が今後の「地域包括ケアシステム」の要になるということですね。

菅原:そう考えています。駐在型なら、夜間の看取りにも対応できます。こういうと、“大変なのでは?”と尻込みされてしまいそうですが、実は日中のケアさえしっかりしていれば、夜間に緊急で呼ばれることはそんなにないと学会でも発表されています。実際に私も10年間、緊急コールを持っていましたが、頻繁に呼ばれるものではありませんし、夜間の看取りはたいてい想定されるので、あらかじめ対応できるものです。

「私たち看護師が、自分ができる関わり方でまちのために動くことで、地域は必ず変わっていくと確信しています」と菅原さん
「私たち看護師が、自分ができる関わり方でまちのために動くことで、地域は必ず変わっていくと確信しています」と菅原さん

――あらためて問います。「看護師の仕事」とは、なんだと思われますか。

菅原:人々のシーツ交換をし、温かいスープを飲ませてあげたナイチンゲールがナースの原点だとすれば、健やかな生活環境を整備してあげることが看護師の大切な役割です。そうした意味でも、訪問看護師というのは、非常にやりがいのあるすごくいい仕事だと思うんです。訪問する時間帯は、すべて利用者一人のために使うことができ、マンツーマンで向き合うことができる。さらに言えば、お腹の中にいる赤ちゃんから、高齢者、遺族のケアまでできるのも訪問看護の醍醐味です。

 私たち看護師は、医師ほど医学の知識はないし、薬剤師や管理栄養士のような専門性も持っていません。ですが、それらすべてを横断的に学んでいるのは、私たち看護師だけなんですね。「今、この患者さんをどこにつなぐのか」をジャッジすることができる。専門性を持たないことが、逆に看護師の専門性であり、強みなのではと思っているんです。

 そうした特性を生かして、各自が得意な分野で力を発揮し、自分ができる関わり方でまちのために動くことで、地域は必ず変わっていくと確信しています。

――今後、行政にはどんなことを望みますか。

菅原:災害時はもちろん、困ったときに気軽に支えあうことができる地域社会を作るために、志のある看護師をうまく活用してネットワークを築いてほしいですね。例えば、「災害時に手伝ってくれる看護師はいませんか?」と、あらかじめ募って登録しておく、「ここに看護師がいます」と地域の人たちに伝えてもいいという人を募集する。何かあったときに、自分の住む地域に看護師がいると分かるだけでも人々の不安は和らぐし、安心できるのではないでしょうか。地域のなかでどう助け合い、支えあうシステムを作るのか。早急に考え、動く時期がきたと思っています。

<インタビューを終えて>
 10年ぶりにお会いした菅原さんはさらにパワフルに活動されていました。超高齢社会の日本では、2025年には65歳以上の高齢者が人口の30%になると見込まれています。果たして親の介護ができるのか、看取りをどうするか…いろいろな不安や問題が山積しています。菅原さんはその解として「訪問看護師」を挙げ、「日本中に星降るほどに訪問看護ステーションを!」と訴えています。小学校区にひとつ訪問看護ステーションがあり、そこが「町の駐在さん」のような存在になれたら…という菅原さんのお話しは、故郷の親と離れて都会で働く私のような遠距離介護予備軍にも安心感を与えます。改めて超高齢社会そして地域におけるナースの力を再認識しました。(麓 幸子=日経BPヒット総合研究所長)

取材・文/西尾英子 写真/矢作常明
(2016年6月24日にサイト「新・公民連携最前線 」のコラム「麓幸子の『地方を変える女性に会いに行く!』」に掲載された記事を転載しています)

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