続々誕生、ふるさと納税をきっかけに変わるまち

――「ふるさとチョイス」を活用し、成果を上げている自治体とそうでない自治体では、何が違うのでしょうか?

須永:地域一丸となって取り組んでいるかどうかという姿勢の違いだと思います。「街の課題のためにふるさと納税を活用する」という目的意識を持っているところは、成果を上げていますね。

 例えば、北海道の上士幌町。13年の初めに、竹中貢町長が私に会いに来てくださったのですが、その時にはすでに、「子育て支援のためにふるさと納税を使いたい」という明確なビジョンをお持ちでした。子育てしやすい町にすることで移住・定住者を増やしたいという目標があったのです。

 そもそも上士幌町は、10年から町公認のネット通販ショップを持っており、「地域の特産物を通販で発送する」というスキームを持った先駆的な自治体でした。そのため、スムーズにふるさと納税の体制に移行することができたのです。15年(1月~12月)には約14億円の寄付を集めています。町長は宣言通り、子育て支援の施策を進め、16年4月からは、町認定こども園の利用料を10年間無料化して話題となりました。それにより、働き始めるお母さん達が増え、その姿を見た近隣のママたちが、上士幌町に移住するというケースが出てきているようです。人口5000人の小さな町ですが、着実に移住者が増えているようです。

――トップの取り組みの姿勢が大きく影響するということですね。

須永:そうですね。首長のリーダーシップとふるさと納税担当者の熱意。その両方がしっかり機能している自治体ほど、良い結果を生んでいます。私も情熱のある自治体には、時間の許す限り会いに行くようにしているんです。

――自治体の職員に向けた「ふるさと納税」セミナーを各地で実施しています。そこでどんなことを伝えるのですか?

須永:ふるさと納税が持つ「可能性」を示すことと、「成功した自治体の事例」をたくさん紹介しています。それを参考に、自分たちの自治体なら何ができるのか、どんな可能性があるかという「気づき」を提供することが目的です。そういうことをお伝えすると皆さんの目の色が違ってきます。

――例えば、どういった成功事例があるでしょうか。

須永:ふるさと納税をきっかけに新たな産業を生み出したのが、佐賀県玄海町です。ふるさと納税によって、地元だけでなく、全国を相手に商売をすることになったものの、一次産品だけだと年間通じて商品を提供することが難しい。そこで、ふるさと納税担当者が考えたのは、六次産品化して商品を平準化させることでした。その一つが、玄海町の棚田米で作ったスパークリングの日本酒です。これは、クラウドファンディングで寄付を集めました。私もいただいたのですが、ものすごくおいしかったですね。

 玄海町に酒蔵がなかったので、担当者が隣町の唐津にある酒蔵に直談判したところ、「そんなに頑張っているのならぜひ協力するよ」と快諾。棚田米は、通常の米より小ぶりなため、磨きをかけるにも技術を要するのですが、チャレンジしてくれたそうです。

トラストバンクには大きな日本地図のボード「ふるさとチョイスMAP」が。トラストバンクを訪問した自治体の担当者がコメントを書き込む
トラストバンクには大きな日本地図のボード「ふるさとチョイスMAP」が。トラストバンクを訪問した自治体の担当者がコメントを書き込む

――自治体主導で新たな産業やブランドが生まれた好事例ですね。一方で、ふるさと納税の問題点として、特産品業者の自治体依存度が高まるのでは?という懸念もありますが、いかがでしょうか。

須永:地域によってはそうした懸念があるのも事実ですが、なかには、事業者同士が連携し合う仕組みが生まれているところもあります。島根県の浜田市では、この4月に市内のお礼の品提供事業者47社による「浜田ふるさと寄付事業者連携会」が立ち上がり、私も設立総会に伺いました。漁業が盛んな浜田市は、のどぐろで有名な地ですが、これまで干物屋さん同士でライバル争いのような競争があったそうです。でも、ふるさと納税によって、地域一丸となって町をPRしなければ寄付も集まらないと気づいた。「自治体に頼っているだけじゃダメだ」と、事業者同士で団結し、街を盛り上げようと頑張っています。全国区で支持されることで「自信」が生まれ、自発的に行動を起こすといった良い流れができ始めているのを感じます。

――もう一つ、指摘されている問題点として、「豪華なお礼の品が話題になり、その競争が激化して、本来の目的から離れているのではないか」という批判もあります。

須永:メディアでは、お礼の品がもらえることが強調されがちなので、どうしてもそうした面がクローズアップされてしまいますが、実際にはそんなことはありません。お礼の品の点数は増えていますが、多くの自治体では還元率に関して節度をもって対応されているのではないでしょうか。なかには、稀に多くの寄附を集めようとするあまり、その地域らしさが感じられない品を出されているようにお見受けするところもありますが、官邸を訪問した際、菅義偉官房長官に「そうした品は、ふるさとを応援するという主旨から離れていると思います」と伝えたところ、同じ認識をお持ちでした。16年の4月からは、商品券やパソコンといった金銭類似性の高いものや資産性の高いものをお礼の品として送らないようにと、総務省から自治体に通達も出ています。

 私たちとしても、寄付者の方に、お礼の品ではなく、「使い道」にフォーカスしていただきたいという思いから、ガバメントクラウドファンディングなどを立ち上げています。