あなたの考え方の癖があなたを不幸にも幸福にもする

 そのヒントをもらったのは、50歳で入学した法政大学大学院での宮城まり子教授の授業「キャリアカウンセリング論」でした。そこで認知行動療法を学んだときに、「これは……!」と思いました。

 「認知」とは、「どのように捉え、どのように考え、どのように感じるか、意味づけるか」ということです。認知療法の基本は、「気分・感情はすべて『認知』によってつくられる。ものごとの受け止め方、捉え方、考え方が気分や感情を規定する」ということです。事実(物事)をその人がどのように捉えるか、考えるか、意味づけるかによって、心の在りようや行動が違ってくる。捉え方、考え方、意味づけの仕方で、私たちの気分や感情、行動は大きく変わるということです。

 授業では、エリスの有名な「ABC理論」も学びました。「ABC」とは下記を指します。

A「Activating Event」……あるできごと

B「Belief System」……信念・思い込み

C「Consequence」……結果として生じる感情

出典:宮城まり子著『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)

 このモデルによると、不快な感情(C)は、それに先行する出来事(A)によって引き起こされるのではなく、その人の非論理的な信念(B)によって発生します。つまり、何か出来事が起こり、そのことであなたの気分がブルーになっているとしたら、それは、出来事があなたを不幸にしているのではなく、あなたの考え方があなた自身を不幸にし、あなた自身が、あなたが落ち込むような捉え方をしているのだということです。

 この理論を知り、何枚も目からウロコが落ちたような気がいたしました。私は、これまで、起こった出来事が私の感情を左右すると思っていました。でも、認知行動療法では違うのです。感情を左右するのは出来事ではない。事実ではない。感情を左右するのは、自分自身の考え方の癖、認知なのだと。自分の認知の偏り、ゆがみなのだと。

 宮城教授から学んだ認知のゆがみから、女性に多いと思われる3つを紹介しましょう。

「全か無か思考(オールオアナッシング)」――白か黒かどちらかに分けて考える、完全思考、完璧主義。例えば……「これに失敗したら人生の敗北だ」

「マイナス思考」――よいことも悪い出来事に捉えてしまう、マイナスに思考することで現実と異なるマイナスの信念を持つ

「すべき思考」――すべきだ、しなければならないと自分にプレッシャーを与え、自分を追い詰める

 宮城先生の授業でそれらを聞いて、グザグサと心に突き刺さりました。「ああ、自分は『すべき思考』があるな。認知のゆがみがあるなあ」と。

 自分自身の歪んだ考え方、認知の偏りに気づき、それを修正すれば、感情をうまくコントロールすることができるというのです。そして捉え方を変えるだけでなく、自分の行動を変えることにより、相手の反応が変わります。相手の反応が変わると、自分がさらに変わり、捉え方の偏りがさらに修正します。認知行動療法とは、具体的に行動を実践するということなのです。

 先に紹介したエリスの「ABC理論」には、さらに「DE」が加わります。

A 「Activithing Event」あるできごと

↓         ↙D「Dispute」…反論する

B「Belief System」信念・思い込み

↓         ↘ E「Effect」…不快な感情の解消

C「Consequence」結果として生じる感情

出典:宮城まり子著『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)

 つまり、不快な感情をもたらした非合理的な信念(B)を明らかにし、それに反論(D)を加え、論理的な信念を獲得し、不快な感情が解消するという効果(E)がもたらされるのです。