「地方は何もない、東京は素晴らしい」は間違いだった

「地域にあるものを教育に活用して、グローバルとローカルを合わせた“グローカル”を目指すことが必要だと気付いた」と今村さん
「地域にあるものを教育に活用して、グローバルとローカルを合わせた“グローカル”を目指すことが必要だと気付いた」と今村さん

――今村さんの価値観がコラボ・スクールで大きく変わったんですか。

今村:少しさかのぼりますが、私は岐阜県高山市の出身で、高校生の頃から都会に憧れていました。大学進学で東京に来て、「ああ、この社会は階層社会であり、階級社会なんだな」ということを強く感じたんですね。大学の友人が地元では見たこともないような豪邸に住んでいたり、高級外車に乗っていたり、海外留学経験者も多くて、驚きました。

 情報や経済も、教育機会や出会う人の多様性も、地方と東京では格差があると痛感しました。そして「地方にはなくて東京にはあるもの」に自分自身が魅了されたんです。高校生の頃にもっと「こんな大人になりたい」という憧れや目標を抱けるような出会いがあれば、進路選択や未来の可能性が広がるのではないか…。そう考えて大学時代に立ち上げたのが「カタリバ」です。その根底には無意識に「地方はかわいそうで、東京のほうがいい」という価値観がありました。

――私も秋田県出身なのでそのギャップなり価値観というのはよくわかります。若者は、何もない地方から、なんでもある東京へ中央へと流出していくと。

今村:ところが東北で生活をする中で、その価値観は一変しました。地方は全然かわいそうじゃないんです。地方の魅力がたくさんあることがわかったんです。

 もちろん被災したことは大変な出来事でしたが、地方の人は、都会にはない生活の知恵や経験を持っています。物々交換の習慣が今もあって、貨幣経済には置き換えられない豊かさがあります。震災直後に断水したとき、高校生たちが近所のお年寄りに、「ばあちゃん、いいよ、そこに座っててよ」と声をかけながら、水を運んでいる姿が印象的でした。都会では失われてしまった異世代の交流や人間関係が、地域の中に今も残っているんですね。

 私はこれまで、なぜ地方に“ある”ものの素晴らしさに気付かずに仕事をしてきたんだろうかと、頭を殴られたような気分になりました。

――無意識に持っていた地方に対する偏見に気付いたということなんですか。

今村:本当にそうですね。地方って可能性があるんだな、と思いました。地方には、子どもに圧倒的に豊かな経験をさせてあげられる土壌があります。もちろんグローバルな視点も大切ですが、地域にあるものをもっと教育に活用して、グローバルとローカルを合わせた“グローカル”を目指すことが必要だと、コラボ・スクールにかかわらせていただいた中で気付かされたのです。

――コラボ・スクールで、町にはどんな変化が起きましたか?

今村:町自体の変化はわかりませんが、町で暮らす子どもたちの選択肢が広がったのではないかと思います。

 コラボ・スクールでは現在、地域の大人と、全国から採用して現地に移住する大人がチームとなって学習指導をしています。全国採用の人の中には、青年海外協力隊のOBや、企業で働いていた人など、多様な経験・キャリアを持つ人が集まっています。ボランティアの大学生も受け入れているのですが、近隣に大学がない地域では、「大学生を初めて見た」という子どももいるんですね。

 こうした様々な大人や大学生との出会いによって、子どもたちが「こんなふうになりたいな」と憧れる存在を見つけられたり、多様な進路選択への意欲が生まれたりしているのではないかと思います。