「人生を変える偶然」との出会い方

 同大学院では、宮城まり子教授の「キャリアカウンセリング学」という授業で、この理論を学びました。宮城教授は、「計画された偶発性理論」を、著書「キャリアカウンセリング」(駿河台出版社)の中でこのように説明しています。

 「我々のキャリアは、それぞれ予期せぬ出来事によって決定される。そして我々が人生上遭遇するその予期せぬ偶発的出来事を上手に活用することによって、ただの偶発的出来事も自分のキャリア形成の力に変えていくことができる。それは一人一人の主体性であり、意識的努力によるものである。なぜなら、偶発的出来事が起きるその前には、自分自身のさまざまな行動が存在しており、その自分の行動が次に偶発的に起きるその出来事を決定しているともいえるからである」

 これまで、よいキャリアを築くためにはきちんと準備をしたほうがいいと思われてきましたが、クランボルツは、用意周到に計画的に準備できるものと思ってはいけないと言います。彼は1999年にこの理論を発表していますが、2005年に出版された彼の著書の日本語タイトルは、「その幸運は偶然ではないんです!」(ダイヤモンド社)。帯には、「もうキャリアプランはいらない」と書かれています。

 この世の中、何が起こるかわかりません。「ドッグイヤー」と言われるほど技術革新などの外部変化のスピードが速いのですから、計画的に準備したとしてもそれでは対応できない、想定外のことも多くなるのです。むしろ、キャリアは予期せず偶然の出来事によって決定されるとクランボルツは結論づけたのです。

 「たまたま読んだ雑誌の記事で」「偶然参加したセミナーで」などがそれに当たりますね。しかし、その偶然をつくり出しているのは何かというと自分自身。つまり、主体的に積極的に行動した当人がつくり出しているというわけです。

偶然をつくり出しているのは自分自身 (C)PIXTA
偶然をつくり出しているのは自分自身 (C)PIXTA

 たった5行の記事から新たな事業モデルを日本で創出した水越さんの場合は、その前段階として、「ホームレスを支援する」という社会課題に関心がありました。それを何とか解決したいという熱い思いがありました。だからこそ、その小さな記事にもかかわらず見逃さずにきちんと見つけることができたのです。普段から自分の興味や関心のむく方向で積極的に行動していくことが偶然を呼び込み、自らのチャンスをつくり出しているのです。

 キャリアは偶然の中で形成されること、偶然にもたらされた機会を大切にし、主体的にキャリアに生かして、偶然を意味のあるものへと転換させること。そして積極的に行動することによって偶然を自らつくり出すということなのですね。

 大学院で宮城教授から学んだ次の言葉は深く私の胸に刻まれました。その言葉で今回の原稿を締めくくりたいと思います。

 キャリア・チャンスは準備のある人のところにやってくる。
 キャリア・チャンスをつかむのも、自分の主体性である。

文/麓幸子 写真/PIXTA


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