「カンファタブルな(居心地のいい)状況になったら、そこを出たほうがいい」と。

 私もまさに同意見です。

 居心地がいい状況というと一見よい状態のように思います。私生活であればそうかもしれません。しかし、仕事の場面では違うのです。それではキャリア形成上ではマイナスです。居心地がいい――つまりプレッシャーもストレスもない仕事であれば、自分の成長は望めないからです。そこにやりがいや達成感がないからです。自分が簡単にできる仕事しか与えられなければすぐに飽きてしまうでしょう。それはキャリアの停滞につながります。

不本意な部署の異動内示に号泣。しかしその後…

 ここで私のケースをお話しします。一つのサンプルケースとしてお読みください。

 自己紹介で、日経WOMANの創刊メンバーで、編集長、発行人をしていましたと書きましたが、そうすると、「ずっと日経WOMAN編集部にいたのかな」と思われたかもしれませんが、そうではありません。

 私も5年くらいでいろいろな部署の異動を繰り返し、日経WOMAN編集部にも4度くらい出たり入ったりしました。日経WOMANが創刊された年に最初の妊娠をし、それを当時の編集長に告げると主婦向けの編集部に異動となりました。数年後、日経WOMAN編集部に戻り、2人目を妊娠すると、また異動になりました。29歳のときでした。

 今度は月刊誌編集部ではなく、企業のパンフレットなどを作る企画出版部門に異動となりました。今だから言いますが、その内示を告げられた夜に私は号泣したことをよく覚えています。なぜなら雑誌記者になりたくてこの会社に入ったのに、そうではない部門に異動になったからです。抵抗がありました。

 でも、入社して33年たった今自分のキャリアを振り返ると、その部門への異動がとてもよかったことが分かります。その部署で記者ではできなかったいろいろなことを経験できたからです。担当の営業マン(当時は営業職のほとんどが男性でした)と一緒になってクライアント訪問し、企画をプレゼンをします。時には接待もあります。クライアントの要望を聞き、いいものを作るとまた仕事を頂くことができます。受注できると売上が増えます。みんなで努力してコストを抑えれば利益率が上がります……。これはみんなビジネスでは当たり前のことですね。でも、一生懸命取材していい記事を書くことが一番の目標であった記者時代では分からなかったビジネスの「イロハ」をそこで学べたのです。