大切なモノのために仕事をしていたはずなのに、いつの間にか仕事が最優先に……なんてことになっていませんか?

ふもっふものプーに顔をうずめたい… (C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved
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 ディズニーの人気キャラクター「くまのプーさん」が「プーと大人になった僕」というタイトルで実写映画化されました。ロンドンで働く大人になったクリストファー・ロビンと、今でも森で暮らすプーと仲間たちの物語です。

 成長したロビンには仕事も家庭もあり、立派な大人として描かれています。少年の頃によく遊んだプーとの再会を描くとなると、なんとなく「仕事に追われ、忘れかけていた大切なモノ」を訴求するような映画なんだろうなと、想像がつきますよね。

 仕事も大切だけど、一度ゆっくり考えてみようよ、少し休もうよと言ってくる映画は少なくありません。ブラック企業や社畜など、仕事に対するネガティブワードはたくさんありますし、たとえ仕事を楽しんでいたとしても働き過ぎ問題はつきまといます。

 しかし本作「プーと大人になった僕」は、仕事より大切なモノがあると言いつつも、仕事を全否定することはありませんでした。ただ単に仕事を辞めれば解決する、なんて安易な提案でもなく、見方を変えることの必要性を教えてくれます。

 予告編でも見ることができますが、プーの「それは風船よりも大切?」という言葉には多くの意味が詰まっているのです。

【ストーリー】
少年クリストファー・ロビンが、「100エーカーの森」に住む親友のくまのプーや仲間たちと別れてから長い年月がたった。大人になったロビンは、妻のイヴリンと娘のマデリンと共にロンドンで暮らし、仕事中心の忙しい毎日を送っていた。そんな折、彼の前にプーが現れる。「森の仲間たちが見つからない、一緒に探してほしいんだ」と頼まれたロビンは「100エーカーの森」へ。仲間たちとの再会に喜びと懐かしさを感じながらも、仕事に戻らなければならないことを思い出す。「仕事って、風船より大事なの?」と、悲しむプーたち。ロンドンに戻ったロビンは、会議の重要な書類を森に忘れてしまう……。ロビンの忘れ物に気付いたプーと仲間たちは、マデリンの助けを借り、初めて「100エーカーの森」を飛び出し、ロンドンへと向かう。ロビンが忘れてしまった、本当に「大切なモノ」を届けるために。

 ロビンは責任あるポストに就き、事業部の仲間たちとコスト削減、業務改善に必死に取り組みます。必死なだけに、家庭を犠牲にすることも致し方ないと思っている節があります。大切な娘のマデリンに、満足に本を読んであげることができなくても……。

 本当は仕事よりもっと家庭に目を向けなければと気が付いているのに、見て見ぬふりをしている。文句を言いながらも協力してくれる妻・イヴリンにマデリンを任せたまま。

 仕事をしていく中で責任感が積み重なり、この仕事は自分しかできない、絶対にやらなければいけない、逃げちゃダメだ、などの自分が勝手につくった見えない鎖に縛られている。

どこを向いて仕事をしていますか?

プ、プレゼントですからと言い訳するしかない状況 (C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved
プ、プレゼントですからと言い訳するしかない状況 (C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved

 プーのセリフにある風船が欲しいかどうかはさておき、何か手に入れたいモノやコトがあって働いてお金を稼いでいるはずが、仕事をすること自体が目的になっていないかと、遠回しながら核心を突いてきます。

 プーは自分で「おつむが小さいから……」と自虐的なことを言いつつも、そのセリフ一つ一つにものすごく力があり、どれもハッとさせられる。「プーはくまだからそんなことが言えるんだよ……」と思うロビンの気持ちに初めは共感しますが、だんだんとプーと仲間たちの言葉が不思議と胸に響いてくるのです。

 かつて、あんなに心を通わせていたロビンとプー。しかし今は、とにかく仕事に戻りたいとプーを邪魔者扱いしますが、次第に気付きだします。プーの言いたいことはわかる。でもそんな分かりきったこと、正論、奇麗事を言われても……と。しかし、やっぱりそこが大切なことじゃないか! と思い始めるのです。

 家族との幸せのために働いていたはずが、気付けばただ仕事に追われているだけになっている。上司の顔色をうかがいながら、家族に我慢する努力をさせている。

 向いている方向が間違っているのでは……と。

 作中では「100エーカーの森」が霧に覆われるのですが、それはロビンの心の霧とも言えます。それが少しずつ晴れていく。これが、「ああ、ずっとこの映画を見ていたい」と思うほど気持ちがいいのです。