ピエロだけでも怖いのにトラウマに姿を変えてくる
本作の怖さの肝は、幻覚と現実の境目が曖昧なところと言えます。どこからどこまでが恐怖から感じる幻覚で、現実には何が起きているのか、それをとても巧妙に混ぜ込んでくるのです。
「ピエロ(道化師)恐怖症」という恐怖症があるほど、白くメークされた顔、裂けた唇、怪しい動き、これらに恐怖を感じる人が多くいるそうです。ピエロにあまりなじみのない日本人でも恐怖を感じますよね。本来であれば笑いの対象のはずが、逆に恐怖を感じるとは、まったくおかしな話です。
しかし、このピエロよりも、もっと恐ろしいものが本作には登場します。そう、「それ」です。
この「それ」は人によって変わり、ピエロよりも何よりも怖い存在。トラウマのようなもの。例えば、子どもの頃に薄暗い部屋で、ただの影が顔に見えたりしたことはありませんか? また、小さい頃の恐怖体験が大人になっても抜けないこともありますよね。
私は、実は魔女が怖いんです。幼い頃、祖母に連れて行ってもらった白雪姫のミュージカルに登場した魔女の恐怖が根深く残っているのです。
その魔女はステージを降りて客席を回るパフォーマンスをしたのですが、「ステージと客席には見えない壁があるはず」と思い込み、油断していたんです。何が怖かった、と言葉で言い表せないくらい、とにかく恐ろしかった。
それが40歳のおじさんになっても抜けきれていません。ディズニーランドのアトラクション「白雪姫と七人のこびと」に乗るくらいなら、バンジージャンプを100回飛んだ方がマシだと思えるほどのトラウマを植えつけられたのでした。
本作でも、子どもたちそれぞれの「それ」にピエロが化けて、恐怖を食いものにしてきます。もはや逃げる以外の選択肢が見つからないほどの怖さですが、力を合わせて立ち向かう姿に勇気をもらえる成長物語に感動することでしょう。
果たして「それ」に打ち勝つことはできるのか。また、昨年の自分より成長しているかどうか、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」を見て確かめてみませんか?
それではまた。映画カタリストのゆうせいでした。
文/永井勇成