ほれ込んだ「プチプチ」の魅力、あの手この手で発信

 大切なものを衝撃から守る、空気が入った緩衝材「プチプチ(R)」。本来の用途をはるかに超えるプチプチの魅力や世界観を発信してきたのが、川上産業常務取締役の杉山彩香さんです。誰もがついプチッとつぶしてしまうその特性に着目して、つぶすためのプチプチやハート形のプチプチを作ったり、バンダイとコラボしてずっとプチプチできる玩具を開発したり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究したりと、話題性で市場を大きく広げてきました。

 杉山さんは小学生の時からプログラミングに親しみ、入社した川上産業では社長室に配属、まず会社のホームページのリニューアルに取り組みました。当時の社長は創業二代目でアイデアマン。ホームページ作成のかたわら、社長が繰り出す斬新なアイデアを次々実現させていきました。

「当時、11月11日が(菓子の)『ポッキー&プリッツの日』に認定されたことから、8月8日を『プチプチの日』にしようと。記念日を登録認定している日本記念日協会があると知り、(当時は協会のホームページもなかったため)苦労して探し当てて連絡を取りました」

川上産業株式会社 お客様係 常務取締役 プチプチ文化研究所所長 杉山彩香さん 1999年に川上産業に入社、社長室に配属。ホームページ開設やネット通販事業の立ち上げ、外部企業とのコラボや共同研究、取材対応など幅広く活躍
川上産業株式会社 お客様係 常務取締役 プチプチ文化研究所所長 杉山彩香さん 1999年に川上産業に入社、社長室に配属。ホームページ開設やネット通販事業の立ち上げ、外部企業とのコラボや共同研究、取材対応など幅広く活躍

異業種企業との共同開発や共同研究も

 ちょうど2000年代の初めにネットオークションの利用が拡大し、落札された物品を送るためにプチプチの需要が増えていきました。業者ではない一般のユーザーから「どこで買えるのか」という問い合わせが増えたため、杉山さんの発案でネット通販事業をスタート。それまで、販売はすべて代理店経由だったため、代理店向けとは別商品を開発。ロールを卓上サイズにし、切り取りやすいようミシン目を入れた個人向けの商品をネットで販売し始めました。「当初は、商品の発送も一人でやっていました。後に工場に移管しましたが、工場の人が迷わず簡単に発送ができるようにと工夫を考えたことがいい経験になりました」

 2004年には、ハート形のかわいいプチプチを開発。「ハートの形は丸い形と違って空気が漏れやすいなど技術的に難しい形状でしたが、当社の技術者たちが工夫を重ねて商品化しました」

 他にも、都内の短大とコラボしてプチプチで服をつくってファッションショーをしたり、博覧会の会場にプチプチで作った家を1カ月展示したり。いろいろなネタが集まってきたので、プチプチ文化研究所を設立して本格的にネタを収集、記録。その成果は2006年に書籍「プチプチOFFICIAL BOOK」として出版しました。

 一方で、プチプチの面白さをもっと楽しく広めたいと、2005年に「プチメタル」というバンドを結成。「プチプチOFFICIAL BOOK」の出版を記念して「プチプチなのなの」という歌も作りました。

 こうした活動が注目され、メディアに取材されることが増えました。取材の対応もすべて杉山さんが担当していましたが、「広報」ということを意識したことはあまりなかったといいます。2007年、バンダイとのコラボ開発で大ヒットした玩具「∞(むげん)プチプチ」の発表時にはプレスリリースを準備し、発表会のために歌と動画まで作成。「これがいわゆる広報としての仕事なんだ」と自覚したそうです。

 実際に杉山さんは、変わり種案件に携わることが多いといいます。「プチプチは独立したセルの集合体です。JAXAとの共同研究では、その構造が耐故障性(ロバスト性)に優れていることを検証しました」。5年に及ぶ共同研究ではユニットリーダーを務めました。

 会社の顔でもある広報は、危機管理の局面で非常に重要です。突発的な事故や災害の際のBCP(業務継続計画)も杉山さんの管轄。東日本大震災では仙台工場も津波の被害を受けましたが、避難所では支援物資としてプチプチを使ってもらったといいます。

 広報という仕事において重要なスキルとは、「トラブルにおいてはスピード。平常時においては何でも楽しむことができる力、そして想像力ですね」という杉山さん。とにかくプチプチという商品が好きで、飽きずに20年やり続けられたのは、「好きになる力」が強かったためだといいます。また、想像力を駆使して常に「段取り」を意識しておくこと、物事と物事の「間」を上手につなぐのも大事なスキルだそうです。

 自社の商品やサービスにとことんほれ込み、それを伝えたいという強い思いにとって、広報は最高の舞台。お二人の経営者から、広報という仕事が培ったパワーを強烈に感じました。

文/秋山知子 写真/都築雅人(大西倫加さん)、的野弘路(杉山彩香さん)