貯金額がいくら増えても不安だったり、そもそも貯金ができなかったり……。お金にまつわる悩みは、なかなか尽きないもの。こうした悩みを解消する方法を、脳神経外科医の菅原道仁さんに解説してもらいました。脳科学の見地から考える、お金と幸せの関係とは? 3回にわたってお届けします。

第1回 私たちが「1000万円貯めても不安を消せない」理由(この記事)
第2回 貯蓄減っても後悔なし 医師直伝・幸せなお金の使い方 (6月18日公開予定)
第3回 ムダ遣いは「脳」のせい 幸せな人生とお金を守る方法 (6月20日公開予定)

菅原道仁(すがわら・みちひと)

脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック院長。1970年生まれ。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門として国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。2015年、菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)を開院。著書に「そのお金のムダづかい、やめられます」(文響社)、「成功する人は心配性」(かんき出版)などがある。

不安に思う=ネガティブでよくない…という図式は成立しない

あなたの貯蓄額はいくらですか? (C)PIXTA
あなたの貯蓄額はいくらですか? (C)PIXTA

 本特集「一人暮らしで貯蓄1000万円女子、幸せのリアル」の中の読者アンケートの記事「読者のリアル 1000万円貯めても『不安消えない』」を見ると、1000万円貯まっても安心できない人は多い様子。そんな状況だと「不安な気持ちを解消したい」と思いがちですが、脳神経外科医の菅原さんによると、「不安に思うのは、悪いことではない」そうです。

 「不安感が先走るのは、未来が見えているから。自分の行く先にある穴が見えるから、落ちるのではないかと心配になるんです。でも、ポジティブシンキングの度が過ぎて穴にはまりまくるより、よほどいい。未来が見えるのは、ある種の才能です。実際に経営者やスポーツ選手、アスリートなどを見ても、心配性の人ほど成功しているんですよ」

 そう語る菅原さんによれば、「遺伝子的に見ると、日本人はもともと不安を感じやすい」人種なのだとか。

 「神経伝達物質の『セロトニン』は、不足すると不安を感じやすくなります。この量を調整しているのが『セロトニントランスポーター』と呼ばれるたんぱく質。日本人は、このセロトニントランスポーターの働きが弱いタイプの遺伝子を持っている人が多く、不安を強く感じやすい傾向にあるんです。また、不安になりがちな背景には、『空気を読む』という文化もあると思います。過度な協調性を求められてきた結果、他人の一挙一動が気になり、『この人は不快になっていないか?』などと心配になるのでしょう」

 なるほど、そう聞くと、不安になりやすいからと思い詰める必要はなさそうですね。では、ポジティブに考えるよりも、不安になりがちな人のほうがよいものなのでしょうか?

 「どう思うかはそれぞれの思考のクセなので、どちらでもいいんです。大切なのは、その先の行動。自己啓発の話題で、コップに入った水を『もう半分』と思うか、『まだ半分』と思うか、という例え話がよく用いられますが、重要なのは『物事の見方』を変えること。すなわち、状況に応じて、水を減らさない努力と増やす工夫が必要なんです。不安になり過ぎて身動きが取れなくなるのが一番よくないので、先を見た上で解消法を考え、一歩前を踏み出せるようにしましょう」

「もう半分」と思うか「まだ半分」と思うかよりも、大事な考え方がありました (C)PIXTA
「もう半分」と思うか「まだ半分」と思うかよりも、大事な考え方がありました (C)PIXTA