惰性で生きるのはイヤだから新たなステージに挑戦

 「監督」的な視点が自然と育まれるようになった草刈さんには、新たなステージが待っていました。2005年の愛知万博「愛・地球博」で、自身が主演を務めながら初のプロデュースを体験。踊ることから作ることへ、新たな挑戦の一歩を踏み出したのです。

 「38歳くらいの時、このまま踊れなくなったらできることはあるのか? と悩んでいました。そんな時、夫が『次は自分で作るしかないね』と背中を押してくれたのがきっかけでした。当時はまだ一般の人がバレエを見る機会が少ない時代でしたが、野外の大ステージで4回公演し、2万5000人の方に見てもらうことができました」

『愛・地球博』で新たな挑戦の一歩を踏み出した草刈さん
『愛・地球博』で新たな挑戦の一歩を踏み出した草刈さん

 草刈さんはその後もバレリーナとして活躍し続けますが、43歳の時に引退して女優に転身しました。40歳を過ぎてからの挑戦に二の足を踏むことはなかったのでしょうか。

 「足も体もバランスが崩れてきて『そろそろ腹を決めなければ』と思うようになり、41歳の時に引退を決意しました。教える側に回ることもできるけれど、いっそバレエから足を洗って別のことをやったほうがいいと思ったんですね。女優として舞台に立てたらこれまで培ってきたものが生かせるかもと思い立ち、女優転身に向けて心が固まりました。引退したのは43歳ですね。人生90年の時代だから、40代で何かを始めても決して遅くはありません。何かを守ることにとらわれるより、時には何かを捨てても新しいことをやるほうがいいと思うんです」

 最後に参加者や読者の皆さんへのメッセージをお願いしました。

 「今の世の中は『こうしないほうがいい』という発想が先行しがちですが、制限を基準にすると自分のことが見えなくなります。30代、40代で自分がどうありたいかが見えないと苦しくなると思います。ですから、惰性で生きるのはやめましょう。小さなことでもいいから何歳になっても何かを見いだし、踏み出して、自分が納得できる道を進んでほしいですね」

 穏やかな語り口の中にも草刈さんの芯の通った考え方、臆せず挑戦し続ける生き方を垣間見ることができるトークセッションでした。参加者は前に進む力をもらうことができ、草刈さんには惜しみない拍手が送られました。

文/加納美紀 写真/稲垣純也、中村嘉昭