「子育て」と「時間を増やす」ことにお金を費やす

 この春に上のお子さんは就職、下のお子さんは大学に入学して、子育てはほぼ終了。「仕事に没頭できる生活に戻ったんだなと思っています」と本田さん。

 振り返ると、「子どもを預けることに関しては、そのときにある方法をトコトン探して実行したということです。安全面に関しては、ベビーシッターや位置情報システムを利用して助けられました。仕事では、自分の能力が足りない部分は時間で補おうと思って夜中も使っていたんです」と本田さん。「働き方改革が叫ばれている現代では難しいことなのかもしれません」とも。

 「子育てと時間を増やすためにお金もいろいろ使った」と本田さんは話します。「ジレンマや後ろめたさはありました。他のママ友のようにお受験やお稽古事などのサポートはできませんでした」

 しかし働き方を変えなかった理由は、「建築の面白さに取り付かれたのだと思います。建築は未来をつくる仕事、たくさんの人が関わり、自己実現もできて、社会貢献もできる。男女変わりなく一緒にできる仕事なんです。また、組織が個々の裁量で自由に仕事をさせてくれたことも大きい。子どもが小さいときは、日帰り圏内の仕事を中心にさせてくれたこともありがたいことでした」(本田さん)

 中でも一番大きかったのは「夫婦2人でできたこと。私も夫も基本的には自立した主体で、どちらかがどちらかをヘルプしているわけではない。だから夫はイクメンではないと思います。イクメンという言葉は、男性が子育てに対して主体ではないことが前提の言い方だからです」と本田さん。夫が同じ仕事をしていたから、お互いのことを理解するのに苦労がなかったことも働き続けられた理由のようです。

仕事も親子の問題も「愛」で解決できる

 設計部長になってから本田さんが心掛けていることは、「仕事の道筋とゴールをできるだけ示して、それに向かってみんなで進むということ。やり方は任せます。しかし、話はものすごく聞くようにしています。そしてまずいと思ったら口を出すようにしています」

 本田さんが部内をまとめる立場になってから、建築業界にも働き方改革がやってきたといいます。「私の働き方を振り返ると、間違っていたのだろうかと悶々(もんもん)とすることもあります。また、私の若い頃はトライ&エラーを十分にやらせてもらいましたが、今は許されないのかもしれません。そうなると、若手のトレーニングはどうしてあげたらいいのだろうと悩みます」

 建築の仕事は女性に向いていると本田さんは話します。仕事に携わる上で悩んでいること、評価されないことがあるなら、「それは女性だからということではなく、建築家として未熟ということのほうがはるかに大きいと思います」と厳しいアドバイスも。とはいっても、社会インフラや意識がどんどん変化している今、未来は明るいと信じていると本田さんは話します。

 最後に本田さんはこう締めくくりました。「ほとんどのことは愛で解決すると本気で考えています。親子、仕事、クライアント、仲間、そして建築への愛、キーポイントはコミュニケーション。コミュニケーションができるのは、愛を持っているからだと思うのです」

文/広瀬敬代 写真/辺見真也