志があるところにポジションがくる

 及川さんが「グレていた」1年で気付いたのは、「お給料は働いた年数によって上がるのではない。志があるところにポジションがくる」ということでした。及川さんの志とは、言われたことをやるだけでなく、ショップオーナーの仕事の質を向上させたい、会社の評判を変えていきたいということ。

 志を買われて昇進試験に合格した及川さんは、埼玉の事業所のマネージャーに抜てきされます。それが結果的に、大恩ある上司「金八先生」のポジションを奪うことに。

 「でも、そうなったからには有言実行しなければならない。『私が埼玉の事業所の仕事を変えるんだ』という覚悟が生まれました。それが36か37歳くらいの頃です」(及川さん)

目標の意識は「現在」ではなく、「理想」に置く

 埼玉の事業所のリーダーになった及川さんは、当時全国で36あった事業所のうち30位だった成績を8位まで押し上げます。ところが本社の面談では、またも予想に反し「期待外れ」の言葉が。そして再び仕事への意識が変わります。

 「『いい地盤といいメンバーをあなたに預けている。その力を最大限発揮させないで、責任を果たしたと言えるのか』と。そう言われたときに、目標の意識が上がったんです。単に順位を上げることだけに限らず、メンバーがフルに活躍し成果を出してもらうには、基準を現在に置いていてはダメ。基準は理想に置かないといけないんだと気付きました」(及川さん)

 リーダーとは自分で動くのではなく、メンバーの方々の力を最大化して、そのミッションを現実にするためにまとめる人ということ――。再度、叱られたことで仕事への意識が変わった及川さん。その後の半年で埼玉の事業所の成績を全国2位まで押し上げた後、本社の花形部署である商品企画部に抜てきされ、現在に至ります。

子育てとの両立をどう乗り越えたのか

 仕事で活躍されていた及川さんですが、28歳で娘さんを出産しています。日本は母親が働き続けにくい国といわれますが、どうやって育児を乗り越えたのでしょうか?

 その頃はちょうど「この職場には私がいなければダメ!」という、「幸せな誤解」をしていたという及川さん。産後もなるべく早く会社に戻ろうと思いつつ、実家は遠く、あまり親に頼れない状況でした。そこで思い切って、当時の法定で最短だったという生後42日から預かってくれる保育園に娘さんを預けたそうです。

 「若かったので怖いもの知らずでしたね。20年前の話ですし、(42日からというのは)誰にもおすすめしません。ただ、42日から6歳まで保育園にいた娘は、ほとんど保育園の『主(ぬし)』。保育園ストレスを感じさせずに済みました。皆さんには、子供を預けるなら物心つく前をおすすめしています。それが当たり前の日常になりますので、お互いに寂しくありません」(及川さん)