「悪いロールモデル」からの脱却

 国谷さんがこの数年こだわってきたのが、「女性・経済・働き方」というテーマです。雇用が不安定になり、高齢化・少子化も進んでいる中、「もっとイノベーションを打ち出さなくてはならないのですが、なかなかいい答えがないまま、時が流れていってしまっている」と警鐘を鳴らします。

 国谷さんの生き方を変えたのは、新宿に世界中の女性が集まった7年前の国際会議でした。それまでの国谷さんはワークライフを全く考えず、あの人みたいには働けない、なりたくないという「悪いロールモデル」として存在していたそうです。その会議では女性たちがネットワークを作り、話し合いをできる場がありました。けれど男性社会であるNHKには同じような場が存在しません。

 国谷さんは、外部の会議や様々な場で自分が女性として知りえたテーマを積極的に提案するようになりました。周りを巻き込んでいくなかで、NHKにも変化が。女性のワークライフバランス推進室がようやく3年前にでき、NHKの中で孤立し、バラバラに働いていた女性たちが部署を超えて連携するようになったのです。「私たちが意識を変えられる」と、管理職を目指す人も出てきているそうです。

国谷さんは自分自身の働き方を「悪いロールモデル」だったと振り返ります
国谷さんは自分自身の働き方を「悪いロールモデル」だったと振り返ります

法律ができても女性の労働環境は厳しい現実

 日本女子大学の大沢真知子教授による調査によると、日本の女性の労働に対する現状は、短大・専門学校以上を卒業した労働意欲意識の高い女性ほど、離職しているという残念な結果が出ていると言います。その理由は、企業が男性と同じように女性が活躍できる場を与えていないからだと分析されています。「大きなチャンスが女性には与えられなかったり、決定権を持つ役職が男性ばかりで構成されていたりすると、結婚・出産といったライフステージの変化の前に、能力の高い、やる気のある女性たちが自分たちの殻に閉じこもってしまう危険がある」と国谷さんは指摘しました。

 女性の社会進出の先進国であるアメリカでさえも、同様の問題を抱えていることがFacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグさんへのインタビューで分かったそうです。

 「先進的なアメリカでさえこういう事態が起きているのであれば、日本では、女性を意識的にチャレンジングな仕事につけて励まし、若いころから育てなければ一歩踏み出そうという人たちが生まれないのではないか?」と国谷さんは考えます。

 「自分も含めて日本の女性たちを振り返ると、『手を挙げない』『自分の能力を低く見る傾向がある』『自己肯定感が男性より低い』――そうした女性たち特有の意識も理解したうえで、企業や組織は女性を育成していかなればならないのではないでしょうか。

 私は男性のように働くのを否定しているのではなく、男性と同じように働く時期があってもいいと思っています。でも、あとに続く女性たちを育てるためには、後押しする環境が必要だと思います。活躍している女性たちの層をどんどん厚くしていかないと、状況は変わっていかない。悪いロールモデルの後ろには、振り返っても誰もついてきていません」(国谷さん)