候補者のリスク要因はメールと納税申告

池上:トランプ氏という怪物が誕生した背景には、決められない政治へのいら立ちがあるのです。きっかけは2009年に始まったティーパーティ運動です。重い税金をやめ、小さな政府を目指す草の根運動かと思われていましたが、実は大金持ちが豊富な資金で自分たちの考えに近い議員を送り込んで共和党を乗っ取ろうと仕掛けたのです。

 実際、2010年には共和党のベテラン議員や穏健派が次々落選し、過激な考えの人たちが多数当選。オバマ政権が何かやろうとすると議会多数派の共和党が徹底的に反対し、オバマ大統領もティーパーティが主導する共和党の法案に、たびたび拒否権を発動して法案成立を阻止。

 その結果、何も決められない政治が何年も続いた。そんな共和党のやり方に反発する人たちが、共和党を変えてくれるのではないかと、トランプ氏を支持しているのです。

世界情勢から歴史、経済まで分かりやすく解説してくれる池上彰さん
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増田:アメリカの予備選挙は、州によって違います。例えばニューヨーク州の予備選挙で投票するためには、半年前に「私は民主党です」という登録をしていないと投票ができません。一方、当日登録して投票できる州もあります。事前登録が必要な州では、あとからじわじわ人気が出てきたサンダース氏は不利。

 6月7日に行われるカリフォルニア州の予備選挙は事前登録制ですが、これまで選挙に関心が低かったヒスパニック系の人たちが続々と登録しているそうです。この方たちがどちらに投票するのか注目です。

世界史に精通するジャーナリスト、増田ユリヤさん
世界史に精通するジャーナリスト、増田ユリヤさん

池上:民主党のこれまでの獲得議員数ではクリントン氏が優勢ですが、リスク要因もあります。国務長官時代に国務省の機密のメールを自分のメールアドレスで発信していた事実が明らかになり、FBI(米連邦捜査局)が事情聴取をすると言われています。

 そして、共和党の指名獲得を確実にしているトランプ氏にも、実はリスク要因がある。確定申告書(納税申告書)を公表していないのです。歴代の大統領候補者は確定申告の書類を公開するのが慣例。開示しないのは、節税手段を使って税金を納めていないのではないかという疑惑が広がっています。