自分の常識や価値観など意味はない

 そんな現実にぶち当たったとき、更生とはいったい何なのかと考えました。施設側は、幼い少女たちが売春などしなくても生活できるようにと、たくさんの手仕事を教えます。

 私たちフィールドワークの学生も一生懸命になって一緒に歌を歌ったり、アルファベットの書き方を教えたりします。そういう行為の一つひとつが彼女たちのためになると思ってやっているのです。しかしそれが彼女たちをまったく幸せにしないという現実は、私たちを無力感で打ちのめしました。そして何が正しくて、何が間違っているのかがわからなくなってしまいました。

 しかしながら、いろいろ迷いや疑問があっても、その理念に照らして正しいと思うことを続けていくしかないのです。毎日子どもたちに、「何をしたい?」「これはやりたい? やりたくない?」「これはやっていて楽しい?」といった質問をしながら、できるだけ彼女たちが楽しめるように心掛けました。自分が正しいと思っていても、立ち位置や視点が変われば、それは間違ったことになってしまうのは重々承知した上で、自分の信念に従って行動するしかないからです。

 文化の違う場所に行くと、自分の常識や価値観など、想像を絶するくらい意味がない。

 そのことを私は、このインドでの経験で痛感しました。ですから、できることといえば、現実を受け止め、そこに暮らす人たちと対話をし、確認し合いながら事を進めるだけです。

<次回に続きます>

文/成田真理 写真/PIXTA


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