起業家の奥田浩美さんが提案する、「会社を辞めないという選択」。会社に所属しているほうが、様々な人とつながりやすく、より大きく社会を変えられる可能性を秘めていると奥田さんは言います。あなたの強みを会社で生かすには? 会社を“使って”自分の夢をかなえるには? 書籍『会社を辞めないという選択―会社員として戦略的に生きていく』の中から、明日からすぐに仕事が好きになれる働き方を提案します。

(C)PIXTA
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居場所としてのお茶の間をタブレットのなかに

 前回の記事「ITと地方の高齢者をつなぐために立ち上げた事業とは」に引き続き、現在進行中のビジネスを通して感じていることをお伝えします。

 本来、ITとはコミュニケーションを豊かにするために生み出されたはずです。それなのにITの最前線に立つほんの一部の人たちだけで、社会のあり方を全部決めていく世の中になってきている。最先端の輪は狭まっていく一方で、置き去りにされていく人が増えているというのはどういうことだろう。それが許せなくて、もっと多くの人に今起こっている現象を気づかせるためにも、地方から何かを発信することに興味を持ちました。

 まずは私の両親にタブレットを贈って使い方を教えてみたら、そのやり取りを機に親との会話が飛躍的に増えて、つながりも強くなったのです。そこで東京に住む私、神奈川に住む妹とそれぞれの娘たち、そこに母も加えた6人でLINEのグループ「みっちゃん応援団」を立ち上げました。みっちゃんというのは、私の母のことです。母は、遠く離れた鹿児島で、車椅子がなければ生活できない父を介護して暮らしています。「みっちゃん応援団」は当初、私たち娘や孫が、母を励ますためのグループでした。

 ところがいざLINEグループをスタートしてみると、「都心は今、雨が降っているよ」「横浜は晴れているけど」「えー、国分寺は土砂降りだから、校舎から出てはいけないって言われているよ」といった具合に、みんなで他愛もない会話をするようになりました。そうなってみて、初めて気づいたのです。母は何も「頑張れ、頑張れ」と応援されたいわけではなく、娘や孫が会話しているのを、そばで見守っているのが一番幸せだということに。