地方の高齢者を置き去りにして完結しているITの世界

 先にお話ししたとおり、私のもともとの仕事は、IT業界の最先端のイベント企画・運営です。アメリカで最先端の技術が生まれれば、私はそれに対してカンファレンスという発表の場をアレンジし、日本に広めていく。例えば、グーグルなどが世界で新製品・新サービスを発表すると決めたら、私は彼らが世界各国で開催する発表会の日本版をプロデュースするお手伝いをするわけです。さらには、新経済サミットなどを始めとして、IT業界のトップが集まるサミットのアドバイザーのような仕事もしています。

 そんな私がふとプライベートの現状を振り返ったとき、両親は鹿児島県の限界集落に近い、ほとんど高齢者ばかりの町で暮らし、体が思うように動かなくなった父を母が介護する、いわゆる老老介護の生活をしていました。私が最先端のITをあますところなく活用し、それを社会に広めようとしているのに、一方で私の両親はスマートフォンさえ持っておらず、リアルタイムで連絡を取る手段といえば電話かFAXという状態だったのです。最近の私はSNSを使って連絡を取るのが一番自然で便利で、電話もほとんど使わなくなってきました。私が電話から離れていけばいくほど、両親とのコミュニケーションが取れなくなっていく。最先端を追い求めることで、身近な人と離れていく矛盾。父も母も元教師で、本来は勉強熱心な人たちなのに、なぜIT情報に関しては完全に弱者なんだろう。こんな疑問を持ったのがそもそものこの事業の始まりでした。