シンプルな思考回路で、大きなビジョンを

 私の思考回路はシンプルです。25年間ずっとITの最先端の世界でビジネスに取り組んできて、そういえば昔はITなんてなかったなぁとふと気づく。

 「ITってそもそも何のためにあるんだっけ。そうか、コミュニケーションの手段というのが一番大きな役割だなぁ。だけど実際は、一部の本当に最先端の人たちに情報が行き渡っているだけで、思ったほどたくさんの人に情報を伝える結果には至っていない。そうそう、WWWの考案者で、URLの設計者でもあり、インターネットの生みの親と言われるティム・バーナーズ=リーは、いろいろな人たちのコミュニケーションのチャンスを広げるために、そこにみんなが使える“共有地”を作ったんだった。それなのに、その共有地をある一部の人たちが占有している時代になっていていいのかな」。

 そんなことをグルグルと考え、見つけたのが「ITで人を幸せにする」という大きなビジョンです。そして、“一部の最先端の人たち”とは全く関わってこなかった、地方の高齢者たちにITをコミュニケーションの手段として使ってもらう事業として「ITふれあいカフェ」を立ち上げたわけです。動きながら自分自身が「こんなビジョンを持っている」「こんな世界をつくりたい」と発信していけば、きっと「一緒に何かやりましょう」と言ってくれる人も増えるだろうと考えてスタートしてみると、思ったとおり、「介護ロボットを作る」「栄養バランスの取れた介護食を組み立てるソフトウェアを開発する」など、案件の相談が来るようにもなりました。

 こうしたつながりや広がりは、もともと私に「ITで人を幸せにする」というはっきりしたビジョンがあるからだと、私自身が感じています。まったく同様のことを会社の中で実行するのは確かに難しいとは思いますが、それでもあなたの上の上の上くらいのポジションにいる人にまで届くほど大きなビジョンを、日頃からいろいろな場で説明していれば、あなたが “大きな絵”が描ける人間だという評価がなされるかもしれません。最初は「下っ端が何を言う」という反応があるとしても、言い続けると、小さなものでも何かを任せてみようかという人が現れる可能性がある。そんなの無理だという前にまずは声を上げてみる。そういう繰り返しで伝え方自体が磨かれていく場合もあります。

 そういうことの積み重ねの中で、いずれ会社から「社内で事業を立ち上げてほしい」という依頼が来る日もあるかもしれません。もしそうなれば、それこそ会社と個人、両者のビジョンの接点が実を結ぶことになるわけです。そこまでの道のりは少々長いかもしれませんが、そんなふうに接点を持つイメージを持ってほしい。そしてそれは、あなたの会社に対する見方一つですぐにでもできることなのです。

<次回に続きます>

文/成田真理 写真/PIXTA

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