「自分探し」という苦行はやめて、体験至上主義者へ

 そして最後に。10年後の「なりたい私」を追求する上で、一つだけ注意してほしいことがあると、藤原さん。

「皆さんには、『自分探し』をしないでほしい。『本当の自分』などというものは、探しても見つからないということを、知っておいてほしいのです。

 おそらく、皆さんが10代20代の頃には、『自分探しブーム』が巻き起こったと思います。『本当の自分』を探して一人旅をしたり、合う仕事を探して転職を繰り返したり……。これは、自分というものが、自分の中に『原石』としてある、という考え方です。

 しかし、自分というものは『自分の中』にはありません。掘り出すべき『原石』も存在しません。あるとすれば、それは他者との間にあります。自分と他者とが関わり、コミュニケーションをしていく中で、両者の間に生まれるものなのです。

 もっと正確に言うならば、他者との間に生まれる『自分』は、自分のカケラであり、一部分でしかありません。関わる人全員との間に生まれるカケラをすべて集めれば、『自分』というものの全体像が見えてくるかもしれませんが、いずれにせよ、『自分』は『自分の中』に『原石』として存在するものではないのです。

 ですから、『ない』ものを探し求めても、決して見つかりません。『ない』ものを永遠に探し続ける人生は苦行でしかないので、もしも『自分探し』をしている人がいるなら、今日からそんなツライ修行は卒業してほしい」

 同様に、「素の自分」というものも存在しないと藤原さんは言います。シチュエーションに応じて、「演じている自分」がいるだけだ――と。

「でも、だからこそ私たちは、環境によっていくらでも変われるのです。普段から『働く自分』『家族と過ごす自分』『友人と接する自分』など、シーンに応じて柔軟に対応しているのだから、たとえ勤めている会社が倒産したとしても、その環境に合わせて、しなやかに生きていけるはず。

 『本当の自分』や『素の自分』という幻想に惑わされず、普段から『演じている自分』を意識していれば、ピンチのときにも演出家としての自分が現れて、『これからどんな人生を歩んでやろうか』と開き直り、自分で自分の人生の脚本を書いていける。

 『正解』は、待っていてもやって来ません。大切なのは、立ち止まらないこと。どんどん行動して、『体験至上主義者』になることです。そうして築いた30代の歩みが、10年後の豊かな人生の礎になってくれることでしょう」

 自分探しや正解探しはやめて、「体験至上主義者」へ。「オフ時間」には、行動することでしか味わえない体験を重ねて、自分の人生を変えていきましょう。

藤原 和博(ふじはら・かずひろ)

教育改革実践家。1955年生まれ。リクルート入社後、20代は営業としての手腕を発揮。しかし30歳でメニエール病を発症し、37歳でヨーロッパへ移住。40歳で独立。47歳から5年間、義務教育では東京都初の民間校長として、杉並区立和田中学校校長を務める。2016年から2年間、奈良市立一条高校の校長に就任。「45歳の教科書」(PHP研究所)、「人生の教科書[おかねとしあわせ]」(筑摩書房)など著書多数。

前編:10年後、理想の自分になる「モードチェンジ」の方法
後編:自分探し・正解探しはやめる「体験至上主義」のススメ(この記事)

聞き手・文/青野梢 写真/PIXTA