環境を変え、ヨーロッパの「成熟社会」から学んだ人生哲学

 家族を連れた海外赴任の期間は、約2年半。ロンドンで1年1カ月、パリで1年3カ月暮らしながら、藤原さんはヨーロッパの「成熟社会」から多くのものを吸収したといいます。

「印象的だったのは、『Art de Vivre』(アール・ド・ヴィーブル)という、パリの人々の生活信条。直訳すると『生活術』という意味ですが、パリで生活していた私の感覚で翻訳すると、『人間と人間の間を取り持つ、コミュニケーション手段としての芸術的生活術』という意味になります。

 この『アール・ド・ヴィーブル』は、まさに『成熟社会』の生き方。パリの人々は、食事や住まいを大切にし、会話を楽しみ、コミュニケーションを大事にして生きています。彼らの多くは、食事中にワインの銘柄を自慢したり、会社の肩書や役職をひけらかしたりはしません。食事を共にする時間は、お互いがどういう考えを持った人間なのかを知るための時間として、自分の言葉で語り合い、会話を楽しんでいるのです」

 「みんな一緒に」ではなく、「それぞれ一人一人」が、多様な価値観を持って生きているというパリの人々。彼らは、「人間は生を受け、死を迎えるまで、他人と完全に分かり合えることはない」という人生観を持っているからこそ、お互いを知るために会話でコミュニケーションを図りながら、多様な価値観を認め合って生きているのだそう。

 「日本もフランスと同じように、今や『成熟社会』に突入しています。仕事を離れたところで、自分がどんな価値観を持ち、どんな幸せを追求して生きていくのか。肩書を外した自分は何者なのか。30代からの『オフ時間』は、独自の価値観や幸福論を磨く訓練をする時期。そのために、環境をガラリと変えてモードチェンジすることは、『成熟社会』を生き抜く力を養うきっかけになるでしょう」

 ただし、短期間の旅行では、人生の流れは変わらないそうです。

「滞在期間が短いと、現地の人から『お客さん』として扱われてしまうので、人生のモードを変えるのは難しい。私のように移住が無理なら、留学という手もあります。留学する場合も、1年だと『お客さん』のままで終わる可能性があるので、やはり2年くらい。腰を据えてその土地で暮らすことで、自分の価値観が磨かれていきます。

 環境を変え、意気投合する仲間がいる場所や、価値観を共有し合える相手がいる場所から離れると、緊張感が生まれます。もちろん壁にぶつかることもありますが、その分多くのことを学べるので、自分自身が鍛えられるのです。

 海外移住や留学のハードルが高ければ、日本の中で住んだことのない土地に引っ越し、環境をガラリと変えるという方法もあります。その他には、結婚したり子どもを産んだりすることも、モードチェンジにつながります」

移住、留学、引っ越し、結婚、出産。その経験は、「成熟社会」を生き抜く力になるはず (C)PIXTA
移住、留学、引っ越し、結婚、出産。その経験は、「成熟社会」を生き抜く力になるはず (C)PIXTA