年を重ねていくと、次第に意識せざるを得なくなるのが親との関係。特にお金の問題は、親子といえど、いえ、親子だからこそ話し合いにくいこともあります。今回は、親元を離れ、仕送りを続けてきた女性のお話です。お金のプロ・FPの高山一恵さんは親子のお金の問題を解決することができるのでしょうか?

年収が高いはずなのに、貯蓄が少ない理由は… イラスト/北村みなみ
年収が高いはずなのに、貯蓄が少ない理由は… イラスト/北村みなみ
阿部美沙子さん(仮名) 40歳 税理士
年収800万円 一人暮らし
長所 優等生タイプ
短所 我慢しがち

母親の言いなりでここまで来たけれど…

 かなり稼いでいるのにお金がたまらない、という人の中には、もちろん浪費している人もいますが、そうではなく、月々特別な支出をしているというケースもあります。

 今回相談に来た美沙子さんは、まさにそのケースでした。

 40歳で一人暮らし、税理士として立派に活躍している美沙子さん。大手企業に勤め、年収は800万円と高給取りなのですが、貯金はたった100万円しかありません。どうしたら貯蓄を増やせるのでしょうか? と相談しにやってきたのでした。

 いったい何にお金をかけているのだろう? と家計を見ると、答えはすぐに出ました。

 実家への仕送りをしていたのですが、これが月25万円もあったのです。年間300万円が仕送りで出ていく計算になります。一人暮らしをしていて、これだけの支出が常にあるのですから、貯蓄もままならないでしょう。

 まずこの仕送り額を改善しなければなりません。

 でも、そもそも、なぜこんなに仕送り額が大きいのでしょうか。実家の父親と母親は健在で、年金生活を送っています。美沙子さんの仕送りは何に使われているのか不思議です。

 「美沙子さんのお母さん、25万円も何に使ってるのか知ってるのかな?」
 「はい……。歌舞伎とか、旅行とか……」
 「えーっ!?」

 なんと、仕送りはすべて母親の遊興費に充てられていたのです! 歌舞伎が趣味の母親は、しょっちゅう舞台を見に行き、たまには優雅な旅行も。父親の年金ではぜいたくができないので、美沙子さんは母親に言われるままに仕送りをしていたのです。いくら母親にお願いされたからといって、断ればよいだけですよね? ですが、美沙子さんにはそれができなかったのです。

 この関係性は生まれた時からずっと同じ。つまり、母親はいわゆる「毒親」だったのです。

罪悪感を利用する、毒親の支配

 美沙子さんは一人っ子で、ずっと優等生でした。小さい頃から母親の干渉が激しく、「あなたはこの勉強をしなさい」「この学校を受験しなさい」と何もかもを指図されて育ちました。もし美沙子さんが指示と違うことをしようとすると、ひどいかんしゃくを起こし、物を投げたり、大きな声で怒鳴ったりします。心根の優しい美沙子さんは、母親にあらがわず、言う通りにして生きてきました。

 そんな日常に耐えかね、母親から離れたい一心で、全国転勤のある大手の優良企業に、逃げるように就職したのです。

 しかし、母親は家を出た美沙子さんにこう言い続けました。

 「あなたが大企業に勤めることができたのは、頭がよくなるように育ててきたから。ここまで来られたのは誰のおかげだと思ってるの?」
 「親の面倒を見るくらいの恩があるはずなのに、見捨てたのね?」

 こうした言葉に、美沙子さんは後ろめたさを感じ、仕送りを続けてきたわけです。毒親は、優しい美沙子さんが抱く罪悪感につけこんでいました。

 美沙子さんには全く非がなく、母親の言葉は理不尽そのものです。ですが、美沙子さんはそんな理不尽さを受け入れることに慣れ切っていました。「母のような親になってしまいそうで、私も結婚しないのです」と話す美沙子さん。この毒親の輪は断ち切ってしまわないといけません。

 そこで、私は美沙子さんに一計を持ち掛けました。