なじみの銀行のすすめで買ったファンドが……!

 消えてしまった500万円の行方は、良子さんの貯蓄の内訳を聞いて判明しました。

 良子さんは定期預金などの現金で貯蓄しておらず、5年前に1000万円を全額投資信託につぎ込み、資産運用を図っていました。

 もちろん資産運用する上で投資信託を購入すること自体はかまわないのですが、問題はその中身。よく見ると、「新興国債券ファンド」「新興国株式ファンド」「毎月分配型ファンド」といった投資信託が多数並んでいます。

 実はこれらの投資信託は、リターンの割に極めてハイリスクな商品です。

 投資信託は手軽に買えるものの、初心者にとって商品名だけではリスクが分かりにくいことが多いのです。良子さんは、「債券ですから、元本割れはしないですよね?」と私に尋ねましたが、答えはNOです。

 良子さんの買った「新興国債券ファンド」という商品は「債券」という語が入っているため、日本国債のような安定した商品をイメージするかもしれません。しかし、新興国の債券ファンドは、先進国の株式ファンドよりも値動きの幅が大きく、ハイリスク・ハイリターンが一般的です。

 また、「毎月分配型」という商品もくせものです。毎月分配型の投資信託は、1カ月ごとに決算を行い、収益分配金として毎月分配金が受け取れるのですが、ファンドによっては投資した元本を切り崩して「特別分配金」(元本払戻金)として分配していることがあります。この場合、毎月お金が入ってくるため気付きにくいですが、元本がどんどん目減りしているのです。

 さらに、投資信託は取得単価より基準価額が下がると目減りします。良子さんの場合、基準価額が高い年にまとめてこれらの商品を買ってしまっていたため、5年で基準価額が下落し、大きく目減りしたというわけです。

 「損をしたくなかったんです」と話す良子さん。基準価額が値上がりするまで待っていようと思っていたため、売るに売れなくなってしまった状況に陥っていました。

 しかしながら、そもそもこうした投資信託は手数料も高い傾向にあります。良子さんの持っていた投資信託の信託報酬(報酬という呼称ですが、実際は客が支払う手数料です)は、購入額のなんと年3%。コストを上回る運用成果を出せる投資信託はなかなかないため、信託報酬が高い段階で利益が出にくいといえます。

 どうして良子さんのような真面目で慎重な人が、こうした落とし穴にはまってしまったのでしょうか。

人にすすめられるものに、間違いはないと信じていた

 実は、私の元に来る人のうち、教師や看護師の女性からは、こうした相談がよくあるのです。

 皆さん本当に真面目なのですが、学校や病院というのはかなり閉じられた世界。関係者以外の人間関係があまりないため、「あの先生がこの投資信託を始めたらしい」「この保険が貯蓄にはおすすめなんだって」と仲間うちだけでブームが起きてしまうのだとか。「最近では不動産投資がはやり始めています」と良子さんも言います。

 とても勤勉な人たちなのに、「あの先生の言うことなら間違いない」と、他人のおすすめ商品を、内容を吟味しないで買ってしまう傾向があるようです。世間ずれしていないピュアな人たちだからこそ、他人を信じてしまいやすいのです。

 その傾向は、例えば、「一流デパートで買うものに間違いはない」というように、一種のブランド志向にもつながっています。

 金融機関でも同じことで、良子さんはこれらの投資信託は、某メガバンクの営業マンを通じて購入していました。

 「親も代々〇△銀行にお世話になっていましたので、〇△銀行がすすめる商品で損をするなんて思いもしませんでした」と良子さんは振り返ります。

 もちろん親切な銀行マンもたくさんいますが、私が見たところ、少なくとも良子さんの持っている商品からは、「銀行が売りたい商品を売った」という印象を受けました。