どんなによいアドバイスも相手の状態次第

 年齢を重ねるにつれて、価値観が出来上がっていきます。自分軸が確立される意味ではいいことである反面、自分の価値観と違うものをつい否定し、世界が狭くなるという弊害もあると思います。

 これは仕事でも同じことが言えるでしょう。成功体験が増えてくると、「自分のやり方=成功するやり方」という法則が出来上がっていきます。成功法則が確立していくのはいいのですが、後輩や部下には、あまり自分のやり方に固執しないほうがいい。やり遂げる、成功する方法は一つだけとは限らないからです。

バナナマン設楽さんの後輩指導がすごいと思ったワケ

 僕自身も実は、後輩芸人に「こうしたらいいよ」と話してきたことを後輩が実践していないと知り、イラついたことがありました。そこでイライラの原因を考えてみたら、ただ僕は、「自分がうまくいったやり方が正しいと思いたかっただけ」だったのではないかと気付いたんです。

 後輩に話したことは、自分なりに試行錯誤してやっと編み出した成功法則です。それをやらずにいる後輩を見ると、なんだか僕自身まで否定された気になったのでしょう。これに気が付いたら、楽になりました。

 どんなによいアドバイスも、同じ地平や意識に立たないと分からないことは多いものです。

 事務所の先輩である、バナナマンの設楽統さんをすごいと思ったことがありました。芸人にとって、当時「一番出たい番組」の一つに挙げられていた「人志松本の○○な話」(フジテレビ系)に出演した時のこと。しゃべりに長けた芸人たちが勢ぞろいする中、僕は本当に何もできなくて、力不足を思い知らされました。やり取りの中でうまく話に入っていけないとか、リアクションの仕方が分からないとか、あの場面はどう振る舞えばよかったのかとか……知りたいこともいろいろ出てきました。

 そんな鬱々とモヤモヤでいっぱいだった収録後、共演していた設楽さんが「帰りは送ってやるよ」と声を掛けてくださったんです。車内で僕は、たくさんの質問をぶつけました。設楽さんは丁寧に、「あの時は、俺のやり方ではこうやるよ」などと教えてくれました。

上に立つ人は「自分からは手を貸さない」姿勢で

 一通り話を聞けた後、「やっと言えたよ」と設楽さんはおっしゃいました。「同じ目線で同じ悩みを共有しないと、その前にオマエに言っても意味が分からないだろうから」と。設楽さんはそれまで、僕の至らない点や、こうしたらいいのにと思うことはいくつもあったのでしょう。でも、僕が理解できる地平にくるまで気長に待ってくれていたんですね。

「設楽さんは、僕の成長を待ってくれていました」
「設楽さんは、僕の成長を待ってくれていました」

 僕も後輩に対して、「それぞれが思うようにやればいいし、自分はもう口出ししない。ただし、悩んで相談や質問をしてきたときは全力でアドバイスしよう」。そう一歩引いて、大らかに考えられるようになりました。

 アドバイスというのは、タイミングがすべて。上司と部下の関係にも当てはまると思います。後輩や部下も彼らなりの考えがあって、仕事をしているはず。上に立つ者の姿勢は、基本的には「見守る姿勢で放任」ぐらいでいい。それで、一番下の人は育つんです。