ばらばらのリクエストに応えた結果

 「保育の限界」とは、たとえば「もっと思いっきりいろんな体験をさせてあげたい」と思っても、それだけの環境や保育者の人数が足りないと難しい。余裕がないんです。そのなかでも、もっと子どものことを第一に考えたい、「できない」と諦めずに保育の可能性を広げたい、という思いが日増しに強くなっていきました。

ただ仕事をこなすのではなく、「もっとできることがあるのでは?」と雨宮さんは動き続けた
ただ仕事をこなすのではなく、「もっとできることがあるのでは?」と雨宮さんは動き続けた

 さまざまな制限や昔ながらのルールがあるなかで、私自身も何か突破口をつくれないかと考えて、オリジナルの劇を上演したことがあります。「発表会だから劇をやりますよ」と子どもたちの興味がないお話を選んでも「やらされている感」があって楽しめませんよね。

 私が受け持っていたのは3歳から5歳という異年齢クラスだったのですが、みんなのリクエストを聞いたところ、「楽器がいい」「忍者ダンスが踊りたい」「たまごめん(片方の足首になわとびをつけて飛ぶ遊び)がしたい」と、てんでバラバラの答えが返ってきました。さあ、どうしようと考えた結果、同じく当時クラスで読んでいた『ゆかいなゆうびんやさん』という絵本にヒントをもらい、ゆうびんやさんが、音楽家と体操選手と忍者に発表会の招待状を届けに行くという、不思議な劇ができあがりました(笑)。内容はちょっと不思議なものになりましたが、子どもたちが自分が好きなことを生き生きと楽しんでいて、うれしかったですね。

 こんなふうに現場で悩みつつ働いていた私が起業をしたのは、ある出会いがきっかけでした。

文/三浦香代子 写真/稲垣純也

雨宮みなみ(あめみや・みなみ)

1986年生まれ。キッズカラー 代表取締役CEO。中学3年の夏休みの職業体験をきっかけに保育士を目指す。約6年間、複数の保育園で働いたのち、起業。公私ともにパートナーである男性と2010年に入籍・キッズカラーを立ち上げた。保育や子育てにつながる遊びの情報サイト「ほいくるweb」は、6割以上の保育士が利用している。

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