イメージを伝えるときは抽象的に

 アイデアは実行しなければ価値がなく、実行するためには、人の手を借りる必要があります。仲間集めを通して、改めて「アイデアをどのように人に伝えるか」は、アイデアを思いつくのと同じくらい重要なことだと感じました。

 アイデアやビジョンの伝え方は、店舗づくりにおいて、プランナーや建築家の方々と話す際にも意識しました。ビールは大量生産の工業製品だというイメージを覆したかったので、店内は自然を感じさせるような空間にしたいと考えていました。ですが、自然を感じさせるといってもその方法はさまざまです。木の素材を使うのか、天井を高くするのか。木を使ったからといって、私が思い描く「自然を感じる店内」になるとは限りません。そこで、打ち合わせでは想いの部分を伝え、素材や配置については細かい指示をせずにお任せすることにしました。私は建築のプロではありません。具体的なことよりも、あえて抽象的に、できあがりのイメージを伝えた方が、ブレがなくなると思ったんです。

ブランドオリジナルのTシャツには、よく見ると「PR ALL BEER」の文字が隠れている。「自社のビールに限らず、ビールそのものを好きになってほしい、という想いを込めました」
ブランドオリジナルのTシャツには、よく見ると「PR ALL BEER」の文字が隠れている。「自社のビールに限らず、ビールそのものを好きになってほしい、という想いを込めました」

 社長プレゼンから3年後の2015年4月、東京・代官山に初の店舗「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(スプリングバレーブルワリー トーキョー)」がオープンしました。下見に来た時は本当に驚きました。自分の頭の中にあったものがそのまま現れたようで、鳥肌が立ったほどです。プランナーや建築家の方々が本当に素晴らしい仕事をしてくださったおかげです。横浜に2店舗目もオープンし、仲間もぐっと増えました。

 最初は自分の夢を実現したい気持ちが強かったのですが、今では仲間と一緒に夢を実現できることが楽しくてたまりません。仲間のためにも、私はますます面白いアイデアを生み出していかなければ、と考えています。

文/藪内久美子 写真/村田わかな

吉野桜子(よしの・さくらこ)

スプリングバレーブルワリー株式会社 マーケティングマネージャー。2006年、キリンビールに入社。マーケティング部で「キリン アイスプラスビール」「グランドキリン」などの新商品開発に携わる。11年秋より、自ら社長に提案したクラフトビールブランドのプロジェクト「SPRING VALLEY BREWERY(スプリングバレーブルワリー)」の開発をスタート。3年半かけて、横浜・東京に店舗をオープンさせた。さまざまなブルワリーと提携したビアフェスを企画するなど、ビール文化を広めるための取り組みを日々行っている。

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