震災以降、ずっと気になっていたこと

 「髪とアタシ」は美容業界で働いていた夫の思いから生まれたものですが、私自身にも取り組みたいテーマがあって、自分で編集長を務める雑誌を作ることにしました。

 「たたみかた」という雑誌で、この4月にやっと創刊にこぎつけたところです。自分が30歳になったこともあって、「30代のための新しい社会文芸誌」とうたっています。

 東日本大震災以降、信頼できる情報を探し続ける中で、「自分が見ているものって、本当に誰とも共有できないものなんだ」ということをずっと考えてきました。例えば私の話を聞いた相手は、「三根かよこってこういう子かな」と思うかもしれませんが、私が30年間どういう本を読んで、どういう親に育てられて、どういう景色を見ていたかっていうことは絶対に共有できませんよね。

 「今目の前に向き合っている人が、何を考えているか分からない」世界に自分は生きている。そのことに私はすごく衝撃を受けました。

 だから、「たたみかた」の主体は一人称の「わたし」です。他人が見ている世界にももちろん興味があるけれど、私はそれを知り得ないから、私はあくまで「わたし」が主語の世界について研究を進めたいと思っています。

形になるまで6年かかったという雑誌「たたみかた」。創刊号は福島特集に決めた
形になるまで6年かかったという雑誌「たたみかた」。創刊号は福島特集に決めた

 考え方が「右寄り」「左寄り」と言ったりしますよね。「たたみかた」はそれ自体をどうこう言うのではなく、なぜその人がそういう考え方になったのかということを疑問に思うのが出発点です。誰かの発言に対して、「ありえない」とか「何でそんなことを言うの」とか、受けた側は何かしら感情が動きますよね。では、そういう感覚はいつからできたものなのか。

 人は、自分が「正しい」と思っていることから自由になれない。だから、「どちらが正しいという問題ではない」ということを知っている状態から始めよう、というのが私の提案です。