他部署との交流が夢へ近づくチャンスになる

 とはいえ、夢があっても、具体的に何をすれば形になるのか分かりませんでした。当時から起業を考えていたわけでもなかったので、まずは「人のニーズを商品にしていく」マーケティングリサーチを学ぼうと思い、新卒でIT企業に入社しリサーチ部門で働きました。

 とにかくすべてを吸収しようと思っていたので、会社でも興味のままに動き回りました。ワーキングマザーの先輩をランチに誘って話を聞いたり、同僚のキャリアプランを一緒に立ててシミュレーションしてみたり、社内セミナーを開いたり……。

 特に刺激になったのは、他部署との交流です。隣の部署は違う会社のようでした。社内報や忘年会などの“社内委員”を引き受けていたおかげでたくさんの人と出会う機会があり、さまざまな仕事の進め方を知ることができたと思います。

動き続けることで、夢が形になっていく

 当時、積極的にやっていたのは、具体的でなくても「こんなことがしたい」「あの分野に興味がある」と周囲に発信し続けることです。すると、同僚や友人が「面白そうなセミナーがあったよ」「こんな人を紹介するよ」と声をかけてくれるようになったんです。もちろん、セミナーに行ってみてもピンとこないことはよくありました。でも、それも貴重な発見です。どうして興味が持てなかったのかをしっかり振り返っておけば、自分の方向性を定めることになりますよね。そうやって振り返ることで「自分の軸」が見えてきたんです。そして、ある講座のワークショップがきっかけで、「子ども」と「女性」というキーワードが見つかり、それがスリールの核になりました。

流されるのは悪いことじゃない

 「やりたいことが見つからない」と相談されることがあるのですが、そんな時は「軸を持って流される」という言葉を伝えています。「軸」は「なんかいいな」「気になるな」というちょっとした感覚で構わないんです。最初はそれを基準にして、とにかく動いてみる。会社員時代の私がしていたように、友だちや同僚に好きなことや興味のあることを伝えておくのもオススメです。情報通の友だち一人に「こんなことに興味があるんだよね」と話しておくだけで、その人がいろいろなものを持ってきてくれるはずです。

 あとはもう、その流れに乗ってみればいいと思います。ただ、大切なのは行動した後に振り返ること。自分の軸は、動いて動いて、その軌跡を振り返ったときに見えてくるんです。

 25歳で起業したというと、「若くして夢を叶えた人」と思われがちですが、まだまだ試行錯誤しています。そもそも、15歳で考えていたことが形になるまで、10年かかっていますからね。くしゃくしゃになるまで動いて、悩んで、ようやく、です

 「前に進んでいるんだろうか……」と落ち込むこともありましたが、「悩んだり、相談して愚痴を言ったりするのも、行動の一つだよ」という言葉に励まされました。そうやって発信し続けることで、あるとき誰かがヒントをくれるからです。焦らずに、とにかく動いてみる。そして前向きに考える。それがすべてのスタートなのだと思います。

文/藪内久美子 写真/洞澤佐智子 構成/大吉紗央里

堀江敦子(ほりえ・あつこ)

スリール株式会社 代表取締役。中学時代から200名以上のベビーシッターを経験し、仕事と子育ての現実に触れる。IT企業でビジネスの根幹を学び、25歳で学生のキャリア教育と子育てサポートを行うスリールを立ち上げた。内閣府、厚生労働省、文京区の行政委員を兼任しており、2016年4月からは千葉大学の非常勤講師も務めている。

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