第一志望で入社した大手企業をわずか半年で退職することになった鈴木さんは、それまで積み重ねてきた自信をすべて失ってしまいます。再び働く楽しさを取り戻すまでの、辛く苦しい日々が始まりました。

入社半年で人生プランが真っ白に

 退職後は、もうどん底です。気合十分で入った会社にいられなくなった。「もう来なくていい」と言われてしまった。メンタルは強い方だと思っていましたが、さすがに体が悲鳴をあげました。顔の右半分が動かなくなり、笑うことすらできなくなったんです。

 そこから気を取り直して就職活動を始めましたが、全然うまくいきませんでした。「半年で退職」「会社都合」と書かれた履歴書なんて、誰も見てくれないですよね。しかも世の中はリーマンショックの直後。不採用通知が届く度に自信がなくなって、恥ずかしさと自信喪失で、ついには家から出られなくなりました。「働くって当たり前じゃないんだ。働きたくても働けないことってあるんだ」と、このとき初めて痛感しました。

 数カ月ほど経ったあるとき、テレビで政治のニュースを見ていてふと思いました。会社勤めができなくても、政治の世界なら仕事があるんじゃないか、って。なんでもいいから働きたかった。もう勢いですよね。ありとあらゆる友だちに「誰か政治家の知り合いいない?」と連絡をしたら、幸運にも議員秘書の仕事を紹介してもらうことができたんです。

 働き始めてからは、毎日泣いていました。辛くてじゃないんです。「毎日行く場所があるって本当にありがたいことだな」とうれしくて。それからは、水を得た魚のように、無我夢中になって仕事をしました。平日だけでは物足りず、土日にイベント関係のアルバイトも始めました。そこで出会った方にプロモーションのお仕事をいただくようになり、キャスティングから司会まで、何でも臆せず挑戦しました。失敗すること自体は怖くありませんでした。間違えたら教えてもらえばいいですし、自分の考えを持って臨めば、失敗しても「この考え方がよくなかったな」と振り返りができるので成長できると思っています。ただ、しばらくの間は「私は働いていい人間なんだろうか」という不安をずっと抱えながら仕事をしていました。

たった一人の上司が人生を変えてくれた

 徐々に働く気力を取り戻し始めた頃、自分の原点を思い出しました。「そうだ、私は働く環境を良くすることで、人が楽しく働けるようにしたいんだ!」って。すると偶然にも、展示会の仕事で住友不動産の方と出会いました。特に意識していなかったのですが、自分のやりたいことを話すと、「ちょうどオフィス営業を募集してるよ」と教えてくれた。何かのご縁だと思い、すぐに面接を受け、住友不動産に入社。社会人3年目、24歳のときです。

 入社が決まったとき、「もう、無駄に暴れるのはやめよう」と思ったんです(笑)。歴史のある業界でしたし、社会人1社目の経験から、出る杭は“打たれる”どころか、天狗になったら“抜かれる”と学んだので(笑)。しかし、転機は入社半年後に訪れました。体制変更があり、上司が変わったんです。なんでも仕事を任せてくれる人で、彼が持っている案件のサポートをどんどん私にふってくれたんですね。いただいたお仕事を一生懸命やっていくうちに、営業成績も上がっていきました。上司の担当案件でベンチャー企業と出会えたことが、もう一つの転機になりました。営業としてオフィス移転に携わるうちに、ベンチャーの面白さや世の中に与えるインパクトを肌で感じることができました。その後ベンチャーの世界に入ったのも、元をたどればこの上司のおかげ。彼とは今でもお酒を飲む仲ですし、いざというとき頼りになる良き相談相手です。本当に感謝しています。