つらい時期を支えた毎日のルーティン「料理」
介護や看病、さらに仕事に忙殺されると、一人で無心になれる時間がほとんどなくなりますが、私にとって料理は、「無心になれる時間」であり、「着実に進歩を感じられる時間」になっていました。当時の私は夜の番組に出演していたので、毎日午後に出社していたんですね。生放送を終えて帰宅するのは深夜になるため、平日は夫と夕食を共にすることができませんでした。ですから、朝一番にスーパーに行って、出社前に夫の夕食を作り置きして、冷蔵庫に入れておくことにしたのです。
当時の私は完全な料理のビギナー。レパートリーといえば、「お好み焼き」くらい(笑)。料理番組を録画して、見よう見まねで作ることから始めました。特にお世話になったのは、料理研究家の小林カツ代さんのレシピ。カツ代さんの朗らかな性格と、家庭のぬくもりにあふれる献立が大好きになって、著書を何冊も買っては、目次の順に作っていきました。
献立は肉じゃがや焼きそば、ナポリタン、オムライスなど、ごくごくシンプルなものばかり。余裕のない日は簡易調味料を使っていためるだけ、ということもありましたよ。あ、今、当時のメモを見返すと、かなり「焼きそば」の率が高いですね(笑)。たまに「オムそば」の日もありますが……。それでも、お好み焼きだけしか作れなかった頃から比べると、格段の進歩です!(笑)
みそ汁の味が少し引き締まっておいしくなった。片手で卵を割れるようになった……・そんなささやかな、「昨日より今日」の前進を、料理に見いだすことができたのです。
――着実に進歩できるなにか、を求めて行動し、それが当時の小西さんの救いになっていたのですね。
ただ、毎日料理をする。たったこれだけのことだけれど、できない尽くしだった私にとっては、「やれば形になる」という料理のクリエーティビティーと、「おいしかったよ」となんでもよろこんで食べてくれる夫の笑顔に、心から救われていました。
肉親の死に直面すると、日常は無機質、無彩色になってしまいます。当時着ていた洋服は、黒やグレーの暗い色ばかり。週に3回も4回も同じ服を着回すこともざらでした。新しい服に挑戦したり、鮮やかな色を身にまとったりする心のエネルギーがなかったからです。
それでも料理をしていると、色とりどりの野菜を前に、季節の変化を感じられました。1日1時間、台所で過ごすごくわずかな時間が、この頃の私には気持ちの切り替えになっていたのです。日常を取り戻すための時間を、自然と求めていたのだと思います。
私の場合は料理でしたが、部屋の模様替えやランニング、人それぞれ、アプローチは違うでしょうね。ささやかでもいいから進歩を感じられるルーティンを作ることは、つらい時にこそ効いてくるような気がします。
今日は少し重たい話もしましたが、誰もが迎えることになるその時期に向けての心の備えとして受け止めていただけるとうれしいです。
文/宮本恵理子 写真/稲垣純也
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